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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: フランシス・マクドーマンド

『 真実の行方 』 -若き日のエドワード・ノートンに刮目せよ-

Posted on 2019年7月5日 by cool-jupiter

真実の行方 70点
2019年7月2日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:リチャード・ギア エドワード・ノートン フランシス・マクドーマンド
監督:グレゴリー・ホブリット

f:id:Jovian-Cinephile1002:20190705000511j:plain
映画でも小説でも、多重人格ものは定期的に生産される。一人の人間が複数のパーソナリティを持つというのだから、そこから生まれるドラマの可能性が無限大である。しかし、多重人格ものは同時に、それが詐術である可能性を常に孕む。多重人格が本当なのか演技なのかの境目を行き来する作品といえばカトリーヌ・アルレーの小説『 呪われた女 』や邦画『 39 刑法第三十九条 』などがある。本作はと言えば・・・

 

あらすじ

カトリック教会で大司教が殺害された。容疑者としてアーロン(エドワード・ノートン)が逮捕され、マーティン(リチャード・ギア)が弁護を請け負うことになる。その過程でマーティンは徐々にアーロンとは別に真犯人が存在するのではないかと考え始め・・・

 

ポジティブ・サイド

『 アメリア 永遠の翼 』や『 プリティ・ウーマン 』ではやり手のビジネスマンを、『 ジャッカル 』では元IRAの闘士を演じ、今作ではBlood Sucking Lawyerを演じるリチャード・ギアは、日本で言えば世代的には大杉漣か。そのリチャード・ギアが嫌な弁護士からプロフェッショナリズム溢れる弁護士に変わっていく瞬間、そこが本作の見所である。

 

しかし、それ以上に観るべきは若きエドワード・ノートンであろう。栴檀は双葉より芳し。演技派俳優は若い頃から演技派なのである。そしてこの演技という言葉の深みを本作は教えてくれる。

 

題材としては『 フロム・イーブル 〜バチカンを震撼させた悪魔の神父〜 』、『 スポットライト 世紀のスクープ 』などを先取りしたものである。多重人格というものを本格的に世に知らしめたのは、おそらくデイヴ・ペルザーの『 “It”と呼ばれた子 』なのだろうが、本作はこの書籍の出版社にも先立っている。Jovianは確か親父が借りてきたVHSを一緒に観たと記憶しているが、教会の暗部というものに触れて、当時宗教学を専攻していた学生として、何とも言えない気分になったことをうっすらと覚えている。

 

本作の肝は事件の真相であるが、これには本当に驚かされた。2000年代から世界中が多重人格をコンテンツとして消費し始めるが、本作の残したインパクトは実に大きい。カトリーヌ・アルレーの『 わらの女 』やアガサ・クリスティーの『 アクロイド殺し 』、江戸川乱歩の『 陰獣 』が読者に与えたインパクト、そして脳裏に残していく微妙な余韻に通じるものがある。古い映画と侮るなかれ、名優エドワード・ノートンの原点にして傑作である。

 

ネガティブ・サイド

少しペーシングに難がある。なぜこのようないたいけな少年があのような凶行に走ったのかについての背景調査にもう少し踏み込んでもよかった。

 

ローラ・リニーのキャラクターがあまりに多くの属性を付与されたことで、かえって浮いてしまっていたように見えた。検事というのは人を有罪にしてナンボの商売で、法廷ものドラマでもイライラさせられるキャラクターが量産されてきているし、日本でも『 検察側の罪人 』などで見せつけられたように、人間を有罪にすることに血道を上げている。それはそういう生き物だからとギリギリで納得できる。だが、マーティンの元恋人という属性は今作では邪魔だった。『 シン・ゴジラ 』でも長谷川博己と石原さとみを元恋人関係にする案があったらしいが、没になったと聞いている。それで良いのである。余計なぜい肉はいらない。

 

よくよく見聞きすれば、アーロンの発言には矛盾があるという指摘も各所のユーザーレビューにある。なるほどと思わされた。本当に鵜の目鷹の目で映画を観る人は、本作の結末にしらけてしまう可能性は大いにある。

 

総評

これは非常に頭脳的な映画である。多重人格ものに新たな地平を切り開いた作品と言っても過言ではない。もちろん、その後に陸続と生み出されてきた作品群を消化した者の目から見れば不足もあるだろう。しかし、多重人格もののツイストとして、本作は忘れられてはならない一本である。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 1990年代, B Rank, アメリカ, エドワード・ノートン, サスペンス, スリラー, フランシス・マクドーマンド, リチャード・ギア, 監督:グレゴリー・ホブリット, 配給会社:UIPLeave a Comment on 『 真実の行方 』 -若き日のエドワード・ノートンに刮目せよ-

スリー・ビルボード ー予想外の展開と胸を打つエンディングー

Posted on 2018年6月14日2020年2月13日 by cool-jupiter

スリー・ビルボード 85点

2018年2月3日 東宝シネマズ梅田にて観賞
出演:フランシス・マクドーマンド ウッディ・ハレルソン サム・ロックウェル ルーカス・ヘッジズ
監督:マーティン・マクドナー

f:id:Jovian-Cinephile1002:20180614225012j:plain

妻と一緒にこの映画を劇場で観たのだが、すでに結婚していて良かったと思えた。なぜならこの映画の放つ強力なメッセージの一つは、”人は人を傷つける”だからだ(ちなみに、独身時に観て、「独身で良かった」と思えたのは『ゴーン・ガール』だった)。しかし、本作が観る者の心に強烈に焼き付けてくるものは”人は変われる”、”人は人を赦せる”ということでもある。

原題は“Three Billboards Outside Ebbing, MIssouri”である。ミズーリ州にはエビングという地名は無いようだが、マーティン・マクダナー監督が意図したのは、架空の空間を創り上げることで、そこが現実にはどういう場所なのかをより強く浮かび上がらせることだったのだろう。この系列の事件で最も有名なのはトレイボン・マーティン射殺事件であろう。映画で例を挙げるなら『 フルートベール駅で 』(主演はマイケル・B・ジョーダン)や『 デトロイト 』か。『 私はあなたのニグロではない 』でも、横暴という言葉では描写しきれない暴力警官への恐怖が語られたが、それこそがアメリカ市民の紛れもない本音なのだろう。

エビングの片田舎のミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)は、娘をレイプされ、殺されてしまった母親である。夫とは離婚済みで、あちらは若い女と付き合っている。警察は捜査はしつつも、犯人逮捕に至る気配は無い。業を煮やしたミルドレッドは大枚をはたいて町はずれに3つの巨大立て看板(ビルボード)を出す。そこには警察のウィロビー署長を詰る言葉が書かれていた。これによって、警察や地元住民とミルドレッドとの間に溝が生まれてしまう。現代でこそ、各種のデジタルデバイスやICT技術の発達で情報へのアクセスは、田舎でも都会でもそれほどの違いなく行えるようになった。しかし、一度でも日本の田舎(それも日本昔話級の)に住んだことがある者であれば、そこは公共性が高く、閉鎖性が低い都市とは全く異なるコスモロジーが支配する土地であることを認識できるだろう。このエビングという町も同じである。全くの偶然だが、この映画を劇場で観た時、すぐ前の座席にアメリカ人夫婦(アクセントから判断)と思しき2人が座って鑑賞していた。物語の序盤から、登場人物たちがとんでもない言葉遣いをすることに苦笑したり、絶句したりしていた。そして第二幕に差し掛かろうかという時に、2人して退席してしまった。もしも英語に堪能な知人、もしくは英語のネイティブスピーカーの友人がいれば、ぜひ一緒にこの映画を観てほしい。恐ろしいほどの汚い言葉が飛び交う。これはアメリカに特有の話でもなく、日本の片田舎でも同じだ。Jovian自身の経験からも言える。田舎における情報の伝播速度、そして容赦の無い言葉遣い、それはすなわち秩序に対する異物排除の論理の強さの表れでもある。もちろん、そこで観る者が予想するのは、対立の解消と融和である。しかし登場人物の行動や心情、物語の展開が、あまりにも現実離れというか、映画製作、物語製作の文法からかけ離れている本作では、先を読んでやろうなどと意気込むことに意味はない。その最も良い(悪いとも言える、それは人による)例はウッディ・ハレルソン演じるウィロビー署長とミルドレッドが公園のぶらんこで二人きりで話すシーンだ。ここで署長は自身がすい臓がんで余命幾ばくもないことをミルドレッドに告げる。普通なら署長に何らかの同情を示すだろう。しかしミルドレッドは「あんたの病気のことは分かっていてビルボードを出した」と言ってのける。いくら娘を亡くしてしまったからといっても、この態度はないだろうと観る者は思うが、ミルドレッドの暴走はこれだけにとどまらない。トレイラーでも見られるが、火炎瓶で警察署を燃やすところまで行ってしまうのだ。

もちろん、ビルボードの出現をきっかけに警察や地元住民とミルドレッドの間に、軋轢が生じる。そこではサム・ロックウェル演じる人種差別主義者が服を着て歩いているかのような無茶苦茶な警察官ディクソンもいる。ある事件をきっかけにそのディクソンがビルボード管理会社の社員ら(白人)にしこたま暴行を加えていく。このシークエンスは『 バードマン 』ばりのワン・ロングショットで映されており、その迫力と結末も相俟って、恐るべき仕上がりになっている。このようにエビングの町で、秩序が混沌としていく中で、ミルドレッドの家族の秘密というか背景も明らかになって来る。Jovianは以前に父にも母にも言われたことがある、「祖父ちゃんや祖母ちゃんには必ずあいさつしとくんやぞ」と。いつ突然会えなくなるか分からないからだ、と今は理解している。ミルドレッドが娘を亡くしてしまう直前に持った会話は、確かに悔やんでも悔やみきれない類のものだ。しかし、だからと言って色々な人の好意を無下にしたり、警察署を燃やすことの理由にはならない。観る者がミルドレッドに共感することができないまま、しかし、物語はこれまた予想外の方向に火事を、ではなく舵を切っていく。これは書き間違いではない。ちなみにこの火事を引き起こすキャラクターの一人は、『 アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー 』では鍛治になっていた。

もうここまでの展開で、頭がストーリーを処理していくのにも一苦労するのが、ここからさらに予想外の展開へ進んでいく。それが何であるのかは実際に体感するしかないが、人は人を傷つけはするが、人は人を赦すこともできるのだと強く確信させてくれる。CHAGE & ASKAのYAH YAH YAHを何故か無性に歌いたいという気持ちで映画館を後にすることになった。『 女神の見えざる手 』を上回るような予想外の展開。スローン女史が近年の映画キャラクターで最も輝く女性であるとするなら、本作のミルドレッドは最も深い闇を抱えたキャラでありながら、もっとも包容力のある女性でもある。このような作品との出会いは、人生を豊かにしてくれる。フランシス・マクドーマンドとサム・ロックウェルのオスカー受賞もむべなるかな。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, A Rank, イギリス, ウッディ・ハレルソン, サム・ロックウェル, ヒューマンドラマ, フランシス・マクドーマンド, 監督:マーティン・マクドナー, 配給会社:20世紀フォックス映画Leave a Comment on スリー・ビルボード ー予想外の展開と胸を打つエンディングー

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