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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: タイ

『 ホームステイ ボクと僕の100日間 』 -生まれ変わりものの佳作-

Posted on 2019年11月6日2020年4月20日 by cool-jupiter

ホームステイ ボクと僕の100日間 65点
2019年11月4日 テアトル梅田にて鑑賞
出演:ティーラドン・スパパンピンヨー チャープラン・アーリークン
監督:パークプム・ウォンクム

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森絵都の原作小説『 カラフル 』は未読。原恵一監督によるアニメ化作品も未鑑賞。それでも『 バッド・ジーニアス 危険な天才たち 』のスタッフが製作しているからには、一定水準以上のクオリティが担保されているはずと確信してチケットを予約。確かに一定の面白さはあった。

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あらすじ

ボクは死んだ。しかし、「あなたは当選しました」という謎の声が聞こえた。気がつくと、そこは霊安室。ボクは“ミン”(ティーラドン・スパパンピンヨー)という17歳の男子の身体に生まれ変わったのだ。しかし、謎の存在である管理人は告げる、「 100日以内にミンの死の真相を突き止めなければ、お前の魂は永遠に消滅する 」と。ボクはミンが何故死んだのかを突き止められるのか・・・

 

ポジティブ・サイド

まずタイという国が輪廻転生をテーマにした原作を見逃さなかったことが素晴らしい。たとえば『 怪しい彼女 』のような若返りをテーマにした作品には普遍性がある。それは古今東西を問わず、人類が共通して抱く夢だからだ。一方で輪廻転生はそうではない。死生観は文化圏や宗教によって大きく異なるからである。タイという国民のほとんど全員が仏教徒である国、さらに日本のような大乗仏教ではなく、上座部仏教の国が輪廻転生的な生まれ変わりをテーマにした作品を独自に翻案することは必然なのかもしれない。

 

新生ミンの学校生活は青春の甘酸っぱさが感じられた。「ああ、俺にもこんな青春があったな」という気分になれた。特にチャープラン・アーリークン演じるパイとの交流は、橋の上での健全な意味での若気の無分別の発露あり、嬉し恥ずかしのファーストキスありと、青春映画のお手本のような作りになっていた。特にキスの後のパイの達成感と余裕の両方を思わせる微笑は、ミンの先輩にしてチューターという立場もあるだろうが、いわゆるお姉さんキャラ然としたオーラを放っていた。日本のアイドル的な女優連中も、この表情や仕草、所作はよくよく研究した方がよい。

 

同じマスゲーム部員のサルダー・ギアットワラウット演じるリーも味のあるキャラである。典型的な異性の友達的なキャラであり、ミンに心奪われた瞬間に色気ではなく食い気を放つところもポイントが高い。そしてミンが全くリーの恋心に気付かず、それでも無意識のうちにリーの心を掴んで離さない言動をしてしまうところも何とも罪作りである。「ああ、俺にもこんな青春があったな」という気分になれた。

 

マスゲームが終盤のシネマティックかつドラマティックな演出に一役買っており、ボクがミンの謎を探り当てる際の大きなヒントの役割を果たしている。これにはハッとさせられた。日本の原作も子の通りなのだろうか。だとすれば、原作者の森絵都は映像化を意識して執筆していたと見て間違いないだろう。

 

家族や友人が皆、キャラクターが立っていて個性的である。映像的にも息を呑むような演出が随所にあるので、観ていて単純に飽きない。冒頭数分のスーパーナチュラルなテイストの部分を抜ければ、高校生~大学生のデートムービーに好適かもしれない。

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ネガティブ・サイド

ストーリーの進め方に難がある。各サイトのあらすじやトレーラーでも言及されている“パソコン”に行き着くまでが長い。また、すぐ上でも言及したが、映画のトーンが一定していない点も気になる。冒頭だけを取り出せば、まるでホラーかスーパーナチュラルスリラー映画である。それが青春恋愛ものになり、そして中盤以降は家族を巡るサスペンスものになるのだから。全体を貫くトーンとして、例えばミステリ色をもっと基調にするなどの工夫はできたはずだ。“管理人”もそこかしこで登場するが、奇妙な空間演出は最初の一回だけでお腹いっぱいである。あとは、普通の人間の中に不意に紛れ込んで、ミンに謎解きを急げと呟くだけのキャラで良かったように思う。タイは世界最大の仏教国で、輪廻転生の考え方が浸透しているのだから、ミンが当選した「経緯」は謎であっても、ミンが当選した「事実そのもの」に殊更に超自然的な要素を加味しなくてもよいだろう。

 

また、ミンの自殺の真相も正直なところ、拍子抜けである。いや、パイの裏事情には同情しないこともないが、特に家族を巡る謎解きに関しては、西洋東洋の伝統的な家族観の違いが出ている。例えば『 アバウト・レイ 16歳の決断 』のレイと本作のミンはほぼ同世代である。しかし、現実を粛々と受け入れたレイと現実から逃避したミンのコントラストは、個人というよりも文化圏の違いだろう。(そうした意味では『 凛 りん 』というのは設定だけはそれなりに異色でユニークな作品だったなと思い出された。)「こんな人生なら誰でも自殺したくなる!」というミンの台詞は、死=消滅という文化圏ではなく、死んでも生まれ変わるという宗教的観念が浸透した社会、つまり非常にローカルな心の叫びに聞こえてしまった。

 

また展開が全体的にスローである。100日というのが長すぎるのかもしれない。真相究明までのカウントダウンを30日にして、ストーリー全体をもっと圧縮できなかっただろうか。ミンが、彼を取り巻く人間関係の闇を知っていくシーンの一つひとつが結構くどいように感じられた。若者の心に一挙にダメージを与えるなら、ジワジワと一発一発パンチを当てていくよりも、問答無用なコンビネーションパンチを顔面に叩き込んだ方がより効果的だったはずだ。

 

総評

タイ映画は確実に進化しているようである。他国の作品を上手く換骨奪胎して、まるで自国オリジナルのような作品に仕上げてしまうのだから、大したものである。またチャープラン・アーリークンは、日本語や韓国語を頑張って習得すれば、絶対に日韓の映画界からお呼びがかかるはず。国際的なスターを目指してほしい。やや拍子抜けなミステリ要素にさえ期待しなければ、それなりに楽しめる佳作である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Do you want to go eat some shaved ice?

 

劇中のリーの台詞、「かき氷を食べに行こう」の英訳である。Do you want to V?は「Vしたいですか?」以外に、「一緒にVしない?」のような勧誘の意味を持つこともある。詳しくは『 アナと雪の女王 』(今も未鑑賞である!)のこの楽曲

www.youtube.com

を参照されたい。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, C Rank, タイ, チャープラン・アーリークン, ティーラドン・スパパンピンヨー, ファンタジー, 監督:パークプム・ウォンクム, 配給会社:ツインLeave a Comment on 『 ホームステイ ボクと僕の100日間 』 -生まれ変わりものの佳作-

『 バッド・ジーニアス 危険な天才たち 』 -天才的頭脳は誰が為に使う?-

Posted on 2018年10月17日2019年11月1日 by cool-jupiter

バッド・ジーニアス 危険な天才たち 65点
2018年10月14日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:チュティモン・ジョンジャルーンスックジン チャーノン・サンティナトーンクン
監督:ナタウット・プーンピリヤ

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教育が過熱している。ある国や地域が富を一定以上に蓄積させると、その富は衣食住以外のものに費やされる。最も安全にして確実な投資先は、子への教育であると言う人もいるのだ。こうした事情はタイにおいても当てはまりつつあるらしく、本作のような面白一辺倒ではない作品を世に問うてきた。これは、タイという国家が教育の面でも、また娯楽の面でも、成熟しつつあることの証左と受け取るべきなのかもしれない。

 

あらすじ

リン(チュティモン・ジョンジャルーンスックジン)は頭脳明晰な女子高生。特待生として、授業料も免除されている。そんな彼女がひょんなことから親友のグレースに試験中に助け舟を出したことで、裕福な家庭の子女らがリンにカンニングへの協力を持ち掛ける。無論、有料で。受諾したリンは大金を稼ぎ始める。それは、さらに大きなカンニングの舞台へとやがて繋がり・・・

 

ポジティブ・サイド

カンニングを描くテレビドラマや映画というのは時々あったように思うが、全編これカンニングを主題に描く作品というのは前代未聞ではなかろうか。観る者がどのような学生時代を過ごしてきたかにもよるのだろうが、Jovianは大いにサスペンスを感じた。カンニングは言うまでもなく重罪で、その罪の重さは、例えば日本とアメリカを比較すれば、話にならないほどの差が存在する。もちろん、アメリカの方がその罪は遥かに重いと見なされる。日本ではaicezukiなるハンドルネームの予備校生が京都大学の入試の最中にYahoo知恵袋に問題の解答を求める投稿をしたことが社会問題になったことをご記憶の方も多かろう。これは2011年のことであったが、翌2012年、栄えあるハーバード大学の学部生125人が一斉にカンニングを行ったことで100名超が退学処分になったことも日本で報じられ、話題になった。

 

ことほど左様にカンニングの罪は重く、それゆえにカンニングに成功して得られる物も大きいというわけだ。実際にリンはクラスメイト複数名にテスト問題の正解を伝達することで、日本円にして数十万円もの金額を手にする。高校生には分不相応だろう。またカンニングをさせてもらった生徒らも親の覚えが目出度くなり、アメリカはボストンの大学に進むことを勧められる始末。ここから物語は一気にギアを上げる。カンニングに用いる小道具やテクニックが、実際に実行可能なレベルのもので構成されており、それがリアリティとなり、サスペンスを生むという好循環を生んでいる。

 

キャラクターにも深みがある。リンとバンクの二人の秀才が正解を導き出す役割を担うのだが、前者は父子家庭の一人娘、後者は母子家庭の一人息子というコントラストが鮮やかだ。リンはある意味で非常に功利的な思考をする一方で、バンクは母親の苦労に純粋に感謝し、学校の推薦を得てシンガポールに留学し、立派に学問を修め、職を得て金を稼ぎ、そして母親の恩に報いたいと願っている。得られるものと得られないものを冷静に計算するリンは、ある意味でカンニングのリスクとその罪の重さを実感出来れば、そこから足抜けできる。だが、母親に経済的に楽をさせてやりたいと強く願うバンクは、一歩間違えれば倫理的判断を誤ってしまう恐れなしとしない。彼の実家がクリーニング屋を営んでいるというのも、非常に象徴的である。本作はそうした二人の天才の頭脳だけではなく、心理学的な変化を丹念に描くことで観る者に問いかけてくる。「頭脳を売り物にすることは果たして悪いことなのか?」と。この問いに答えるのは大問題である。良いと答えても、悪いと答えても、倫理的な問題を孕むからだ。リンが最終的に導き出す答えは如何に。

 

ネガティブ・サイド

本作は実際に韓国で起きたカンニング事件にインスピレーションを得たとのことだが、本作のメイントリックとも言うべきアイデアは少し弱い。厳密にはカンニングではないが、日本でもこれと同じようなことをしている学生や社会人は少なからず実は存在する。昨今、国内の大学編入や院への進学においてもTOEFL iBTで一定以上のスコアを求める大学や大学院が増えている。しかし、実はここに抜け穴がある。結構な数の大学や大学院が、実はTOEFL ITPのスコアも受け付けているのだ。そしてTOEFL ITPはTOEFL iBTよりも難易度が低く、なおかつ日本人が大いに苦手とするSpeaking Sectionが存在しないという利点もある(ITPはListening, Grammar, Reading iBTはReading, Listening, Speaking, Writing)。海外旅行に行ったついでに、というよりもTOEFL ITPを受験する為に海外に行く人というのは僅かではあるが、確かに存在する。そういう意味ではアイデアとして、本作が採用するカンニング方法は少々陳腐である。というか、同じようなカンニング方法が既に日本で二十数年前に実行されていたことが、明らかにされている。興味のある向きは「豊田真由子」で検索して、色々と当たってみるべし。

 

本作のような環境でカンニングを実行するに当たっては、それこそオーシャンズの如き綿密なプランニングと、一般人の思考の盲点を突くことが鍵となる。本作でそれを実現するとすれば、第三のピースがあれば計画はより万全に近くなったであろう。つまり、故意に捕まる役を仕込むのだ。問題の解答と、解答の伝達を同じ人間が担当するから失敗のリスクが高まるのだ。ただし、計画について知る人間が増えれば増えるほど、情報漏洩のリスクも高くなる。本能寺の変の前の明智秀満の言である。そうしたことを考えると、本作のクライマックスはいささかリアリティに欠ける展開であったと評価せざるを得ない。

 

総評

タイの映画にはこれまでほとんど触れてこなかった。タイ(シャム)を舞台にした映画には『 王様と私 』(ユル・ブリンナーverの一択である)があるが、タイ映画を映画館で観たのは、これが初めてだったかもしれない。製作される映画のレベルとその国の文化や芸術や娯楽の成熟度はおそらく相関関係にある。そうした経験則に基づくならば、タイも成熟しつつあると見て間違いない。それにしてもリン役とバンク役のそれぞれの俳優の演技力の高さよ。日本の同世代は、役者といよりもアイドルという感じだが、タイではジャ○ーズのような事務所は存在せず、それゆえに役者個々の実力が評価されているのだろうか。いくつか釈然としない点はあるものの、サスペンスとしてもクライム・ドラマとしても、それなりの完成度を誇る作品に仕上がっている。観て損をすることはないだろう。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, C Rank, サスペンス, タイ, チャーノン・サンティナトーンクン, チュティモン・ジョンジャルーンスックジン, 監督:ナタウット・プーンピリヤ, 配給会社:サジフィルムズ, 配給会社:マクザムLeave a Comment on 『 バッド・ジーニアス 危険な天才たち 』 -天才的頭脳は誰が為に使う?-

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