アプレンティス ドナルド・トランプの創り方 70点
2025年1月25日 TOHOシネマズ梅田にて鑑賞
出演:セバスチャン・スタン ジェレミー・ストロング
監督:アリ・アッバシ
『 ボーダー 二つの世界 』、『 聖地には蜘蛛が巣を張る 』のアリ・アッバシ監督が、若き日のドナルド・トランプとその師を描くということでチケット購入。
あらすじ
若きビジネスマンのドナルド・トランプ(セバスチャン・スタン)は、父の営む不動産会社が人種差別の疑いで政府に訴えられていたことから、敏腕弁護士ロイ・コーン(ジェレミー・ストロング)に助成を乞う。コーンはトランプに勝利のための3つのルールを教え込んで・・・
ポジティブ・サイド
若き日のドナルド・トランプを描くというだけで興味をそそられる。実際に非常に興味深く観ることができた。
まず1980年代のアメリカの経済が、高金利や輸出不振などでボロボロだったことが活写されていたのが新鮮だった。当時の日本がバブル景気を謳歌していたのは、子どもだったJovianも何となく覚えているし、同時代の『 ゴジラvsキングギドラ 』のプロットなどに当時の世界情勢も反映されている。
そんな中で若きトランプが父の影から出て、トランプ・タワーの建設に邁進していく様は、ひとつのビルドゥングスロマンのようにも映ったし、悪徳弁護士ロイ・コーンの薫陶を受けて、勤勉なビジネスマンから強欲非道なビジネスマンに変貌していく様は恐ろしくもあった。
やはり最も印象に残ったのは、ロイ・コーンの
- Attack, attack, attack.
- Admit nothing and deny everything.
- Claim victory and never admit defeat.
という勝利への3つのルール。どこかの島国の偏った言論人やネトウヨと呼ばれる人種の行動原理とそっくりではないか。
ストーリーはロイ・コーンの助言を基にビジネスを拡大させていくトランプから、中盤以降、トランプの結婚、トランプとロイ・コーンの離反、トランプと兄との確執などが丹念に、しかしテンポよく描かれていく。終盤では、かつての師匠であったロイ・コーンとの再会を果たすトランプだが、彼はもはや強欲非道ではなく、冷酷非情な人間になってしまっていた。
本作はトランプを一種の作られた偶像のように描くが、彼を作ったロイ・コーンとのコントラストが面白い。たとえば頭髪と内臓脂肪に対して、師匠のロイ・コーンは禿げ頭を気にせず、運動にもしっかり励むのだが、弟子のトランプはまったく異なるアプローチを選択する。現実のトランプ大統領がスエズ運河やグリーンランド、カナダの領有を主張する理由がなんとなく見えてくる。
ロイ・コーンのことは不勉強でよく知らないが、セバスチャン・スタンがどんどんと現実のトランプそっくりになっていくのには笑わされるのと同時に唸らされた。『 バイス 』でチェイニーを演じたクリスチャン・ベールと肩を並べる熱演だった。
ネガティブ・サイド
冒頭がニクソンだったのは、前々回の選挙不正疑惑を直接的に批判する意図だろうか。そんな誘導は不要な出来栄えだったと思うのだが。
レーガン政権のキャッチフレーズ、Let’s Make America Great Again. の Again の部分が分かりにくかった。序盤の人種差別疑惑から徹底して、自身のそばに有色人種を置かないというトランプの姿をもっと明示的にしていれば、より過激なメッセージになっただろうに。
作中での時間の経過がいまひとつはっきりしなかった。最終盤にトランプの子ども達の姿でも映し出してくれれば、そのあたりも把握しやすくなったと思われる。
総評
実に見応えのある伝記映画だった。藍は青より出でて藍より青しと言うが、アメリカを顧客だとうそぶくロイ・コーンの弟子のトランプが、アメリカを従業員だと捉えるかのように成長していく過程がスリリングだった。もちろん、かなりの脚色がされているのだろうが、事実は往々にして小説よりも奇なり。トランプ流の政治や外交が早くも波紋を呼んでいるが、そうしたニュースの背景を知る一つのきっかけとして本作は十分に機能するのではないだろうか。
Jovian先生のワンポイント英会話レッスン
apprentice
原題の The Apprentice とは「弟子」「徒弟」「見習い」の意。『 スター・ウォーズ 』のファンなら、ジェダイやシスにおけるマスターとアプレンティスの関係をよくよくご存じのはず。IELTSやTOEFL、英検準1級以上を受験するなら知っておこう。
次に劇場鑑賞したい映画
『 アット・ザ・ベンチ 』
『 怪獣ヤロウ! 』
『 Welcome Back 』