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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: ケイシー・アフレック

『 A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー 』 -新発想で描く幽霊のパトスとエートス-

Posted on 2018年11月23日2019年11月23日 by cool-jupiter

A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー 75点
2018年11月18日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:ケイシー・アフレック ルーニー・マーラ
監督:デビッド・ロウリー

f:id:Jovian-Cinephile1002:20181123010828j:plain

どんな文化にも、太陽と月に関する神話、そして幽霊に関する物語が存在するものである。そして太陽、月、幽霊の中で最も多彩に解釈されるのは幽霊ではないだろうか。小説や映画の世界では、幽霊は往々にして悲哀または恐怖をもたらすものとして描かれてきた。本作はそこを転換させ、幽霊のパトス、そこから生まれるエートスを描く。視点が人間→幽霊ではなく、幽霊→人間なのである。これは全く新しい視点からの物語であると言える。

 

あらすじ

ある若い夫婦が郊外の一軒家に暮らしていた。誰もいないはずのところで物が落ちたりするなどの不可解なこともあるが、二人は平和に暮らしていた。ある時、夫が死んでしまった。悲嘆に暮れる妻。しかし、夫は遺体安置所のベッドからシーツをかぶった姿のまま起き上がり、歩いて妻の待つ家へと帰る。幽霊となった男の不思議な旅が始まる・・・

 

ポジティブ・サイド

本作のプロットについて説明するのは非常に難しい。ほんのちょっとしたことが重大なネタばれになりかねないからである。幽霊となった男が、妻を見守る話・・・というわけではない。それは話の一側面であって、テーマではない。ある意味で、映画製作者は観る者をかなりの程度まで信用しているとも言える。何と言っても『 マンチェスター・バイ・ザ・シー 』でアカデミー主演男優賞を受賞したケイシー・アフレックに、真っ白のシーツをかぶせて、目と鼻の部分にだけ穴を開けた幽霊を演じさせるのである。『 るろうに剣心 京都大火編 』と『 るろうに剣心 伝説の最期編 』で藤原竜也が顔面に包帯をぐるぐる巻きにした際の演技も素晴らしかった。顔が一切見えないというのは、表現をする上で翼を半分もがれたようなものだが、あれにはまだ音声とアクションという片翼が残されていた。本作のケイシー・アフレックは、全身を白いシーツで覆う、小さな子どもが考え付いたようなゴースト像でほぼ全編を通して登場する。台詞もない。過激なアクションもない。それでいて幽霊の感じる執着、困惑、怒りなどのパトスを見事なまでに我々に伝えてくる。歩き方であったり、振り返り方であったり、ほんのちょっとした指先の動きであったりで、これほどまでに内面の心理を描き出せるものなのかと驚嘆させられる。この幽霊の動きや仕草は、大学の映画サークルや同好会のシリアスなメンバー(特に役者志望や劇団員)は必見であろう。

 

今作はできれば英語字幕で鑑賞することをお勧めしたい。というのも、ある時点では言語が英語ではなくスペイン語に切り替わるからだ。といっても字幕などは一切出ない。スペイン語が分からない人には、画面上で何が起こっているのかを把握するのが全くもってお手上げ・・・とはならないのである。ビジュアルストーリーテリングの極致とも言うべきで、幽霊とスペイン語ファミリーの存在のコントラストが、何よりも雄弁に一連のシーンを語ってくれるのである。このシーンもまた、映画製作を志す者にとっては必見であろう。

 

本作はここから、予想外の展開を見せる。というよりも観る側の想像力を裏切る、または試すかのような展開と言うべきかもしれない。ここで幽霊の生前の職業を思い起こすべきだろう。彼は音楽家だったのだ。作曲し、歌い、レコーディングもする、コンポーザーにしてシンガーにしてオーディオ・エンジニアでもあったわけだ。音楽が瞬間ではなく全体で成り立っていることは、アンリ・ベルクソンの時間=意識の持続という説を援用せずとも理解できる。時間は直線でも等間隔でもない。メロディがありリフレインがあるのだ。これ以上は、劇場で本作を鑑賞して考察をしていただきたいと思う。

 

ネガティブ・サイド

パーティーで酔ってべらべらと喋る男は果たして必要だったのだろうか。あまりにも説明的で、観ている最中は「ほうほう、なるほど」と思えたが、観終わってしばらくしてからは印象が変わった。このシーンはノイズである。

 

もうひとつ弱点を挙げるとするなら、序盤の妻の食事シーンだろうか、おそらく4分ほど固定カメラでロングのワンカットを映すシーンがあるが、ここは2分程度に抑えられなかったのだろうか。典型的な悲嘆のシーンで、物語の進行上ではずせないことは理解できるが、Jovianの嫁さんや左隣の人などは、ここで寝てしまっていた。惜しいかな、序盤でもっと多くの人を引き付けることさえできていればと思う。

 

総評

細部に突っ込むべきところや、説明されないままの箇所も残る。そうしたモヤモヤを許容できなければ、観るべきではないのだろう。しかし、この幽霊を通じて世界を追体験すれば、「生」の意味に新たな発見があるであろう。死および死以後に関しての新たな仮説が提示されたわけで、文学ではなく映画がこれを行ってくれたことに意義を認めたい。非常に野心的な傑作映画である。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アメリカ, ケイシー・アフレック, スリラー, ルーニー・マーラ, 監督:デビッド・ロウリー, 配給会社:パルコLeave a Comment on 『 A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー 』 -新発想で描く幽霊のパトスとエートス-

『マンチェスター・バイ・ザ・シー』 -心の傷を抱えて生きていく、弱さと強さの物語-

Posted on 2018年9月17日2020年2月14日 by cool-jupiter

マンチェスター・バイ・ザ・シー 70点
2018年9月14日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:ケイシー・アフレック ミシェル・ウィリアムズ カイル・チャンドラー ルーカス・ヘッジズ マシュー・ブロデリック
監督:ケネス・ロナーガン

f:id:Jovian-Cinephile1002:20180917194423j:plain

どうか最初の20分だけで、本作を見切らないでほしい。主人公が、仕事には真面目でも陰気でいけ好かない男で、酒場で酔っているわけでもないのに見ず知らずの男たちに喧嘩を吹っ掛けるような奴でも、物語の進行がやたらとスローでも、鑑賞を続けて欲しい。

ボストンで何でも屋として働くリー(ケイシー・アフレック)は兄ジョー(カイル・チャンドラー)の死によって、望まぬ形で甥のパトリック(ルーカス・ヘッジズ)の後見人となる。故郷のマンチェスターに帰ってきたリーは、過去と現在の狭間に囚われた自分と、孤独になった甥との関係に何を見出すのか・・・

本作のテーマは、罪と罰である。といっても、ラスコーリニコフのそれではない。例え法的には罪に問われなくても、罪は罪である。社会が罰してくれないというのであれば、自分で自分を罰し続ける。そうした覚悟を持ち続けることが、貴方にはできるか?本作はそうした強烈な問いを観る者に投げかけてくる。

甥のパトリックはホッケーでラフプレーをし、同級生の女子に二股をかけ、彼女の家でセックスに及ぼうとし、免許も金もないのにボートを自分のものにしようとし、葬儀屋の丁寧なお悔やみの言葉を「毎日言っている定型文だ」と切って捨てる。はっきり言って嫌なガキンチョとして描かれているのだが、そのパトリックが思わぬ形で心の傷の深さを露呈するシーンがある。普通は自室のベッドではらりと涙をこぼすであったり、シャワーを浴びながら嗚咽を漏らすなどの、ありきたりな手=クリシェ=clichéを使うことが考えられるが、本作は全く異なるアプローチを取る。このアナロジーは見事と思わず唸った。

本作は過去と現在を頻繁に行き来する。凡百の作品にみられるような、キャラクターがゆっくりと目を閉じたところで暗転、そこから過去の回想が始まる、などという手法は一切使われない。その代わりに、何の前触れもなく、いきなり過去の回想シーンが挿入される。本作が映画の技法の面で最も優れているのは、実はこういうところである。画面に、「5年前/Five years ago」とスーパーインポーズすれば確実なところを、本作は観客/視聴者を信頼している。我々の見る目に全幅の信頼を置いている。説明が全く無かったとしても、映し出されるシーンが過去なのか、現在なのかをすぐに分かるように配慮してくれているもの(例えば兄のジョーがいる、など)もあるが、そうではないシーンでも即座にこれは過去の回想なのだと分かってしまう。編集の勝利だと言えばそれまでだが、これほどBGMやナレーションの力を使うことなく、映像と役者の存在感をもってして語らしめる作品にはなかなか出会えない。なぜ自分は公開当時、劇場に行かなかったのだろう?思い出せない。

物語の終盤、リーが元妻のランディ(ミシェル・ウィリアムズ)と再会するシーンは、涙腺決壊必定である。それはリーが救われるからではない。リーは赦しを求めておらず、救いも求めておらず、癒しも求めていない。にもかかわらず、不意に相手からそれらを与えられた時、受け入れられなかった。それほど彼の悲しみは深いのだ。凍てつくような風を吹かせるマンチェスターの海に、抗うように飛ぶカモメの群れと、水面にただ一羽佇むように留まるカモメ。その残酷なコントラストが、しかし、美しさを感じさせる。心に傷を持つ人に観て欲しいなどとは思わない。しかし、心に傷を抱える人の死のうとする弱さと、それでも生きていこうとする強さに、観る者の心が揺さぶられるのだけは間違いない。

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アメリカ, カイル・チャンドラー, ケイシー・アフレック, ヒューマンドラマ, ミシェル・ウィリアムズ, ルーカス・ヘッジズ, 監督:ケネス・ロナーガン, 配給会社:パルコ, 配給会社:ビターズ・エンドLeave a Comment on 『マンチェスター・バイ・ザ・シー』 -心の傷を抱えて生きていく、弱さと強さの物語-

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