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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

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2025年総括と2026年展望

Posted on 2025年12月31日 by cool-jupiter

2025年総括

副業、さらに英語ネタの note に時間を使っていて、年間100本のレビューには二年連続で及ばず。しゃーない。邦画では『 国宝 』がまさかの実写歴代一位を獲得。年末にも上映されているという異例のロングランとなったのが印象的。外国映画では、数こそ少ないものの中国アニメが鮮烈な印象を残した。映画館の営業スタイルはコロナ禍の前および最中に比べて完全に旧に復したが、チケット代はじわじわと上昇。それだけ国が貧しくなったのだと感じて、気が滅入る。アニメが強いのはお国柄だと言えるが、アニメが最強コンテンツだというのは毎年ながら釈然としない。

 

前向きになれる傾向としては、コロナ禍を経験した中で、旧来の連たちの形、新しい連帯の形が積極的に模索されてきたこと。『 フロントライン 』や『 この夏の星を見る 』などは、社会派でありつつエンタメの要素も併せ持った良作だった。今後は外国人問題、超高齢者問題、孤独死、尊厳死、そして戦争前夜の雰囲気を色濃く反映した映画が作られていくことを懸念しつつ、期待もしたい。

 

それでは各賞の発表をば。

 

2025年最優秀海外映画

『 教皇選挙 』

現実世界での教皇の死去および本物のコンクラーベが本作公開の年に起こるというのは、良くも悪くも最高のプロモーションになったのではないだろうか。宗教というシステム(Jovianの卒論のテーマだった)は信じることによって生み出されているが、それは政治でも経済でも同じこと。法律は文字、貨幣は物体。そこに現実的な拘束力はない。しかし、我々はそのシステムに従う。大切なのはシステムを盲目的に受け入れることではなく、それに疑義を抱くこと。そうしたことを非常にサスペンスフルに描き出した本作こそ、年間最優秀映画の栄に浴するにふさわしい。

次点

『 羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来 』

小黒の成長、新キャラの導入、そして人間と妖精、妖精と妖精の間の緊張関係の高まりを2時間の中に過不足なく盛り込んだ脚本は称賛に値する。また、台詞に頼らない narrative 、さらにアニメ的というよりも漫画的な格闘シーンの数々が印象的だった。中国がコンテンツ産業にも力を入れ始めた証か。ジブリを承継するのは日本ではなく中国となるのだろうか。このクオリティの作品を継続的に作れるなら、それも歓迎したい。そう感じられるほどのクオリティの高さを誇っている。

次々点

『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』

韓国に限らず、世界の大都市に共通する環境の中で紡ぎだされる物語。都市とは、隣人が正体不明である空間に他ならない。誰もが他人に無関心である中、マイノリティたちが互いにロマンティックにならず、しかし自らのロマンスをひたむきに追い求め、傷つき、そして癒されていく。分断の対義語の一つに共存があるが、その共存のありうべき形を提示した傑作。

 

2025年最優秀国内映画

『 愛されなくても別に 』

ある意味で日本版の『 ラブ・イン・ザ・ビッグシティ 』であるとも言える作品。身の上の不幸を嘆くのはいいが、それを他人と競っても仕方がない。同病相哀れむのはいい。しかし、これからの時代に求められるのは、異病相慈しむという姿勢ではないだろうか。それを如実に示した本作の価値は上がりこそすれ、下がることはないに違いない。

次点

『 国宝 』

まさかの実写映画の日本歴代ナンバーワンの興行収入を達成。テレビの力で一位に君臨してきた作品が、テレビ資本なしの本作によって蹴落とされるのは象徴的。政治およびエンタメの世界の口コミの力に辟易していたのだが、本作のヒットは間違いなく数多くのレビュワーの力によるところも大きい。もちろん、脚本、演技、撮影のすべてもハイレベルだったことは言うまでもない。

次々点

『 JUNK WORLD 』

狂ったクリエイターがさらにその凶器を加速させて作り上げたエンタメ。実写とアニメの境目を行く本作は、その制作過程だけではなく、そのストーリーも良い意味で狂っている。個性が重視されながらも、それを育てる土壌がない日本社会において、このようなクリエイターが制作に没頭し、作品を発表できていることは非常に好ましいことだ。

 

2025年最優秀海外俳優

デミ・ムーア

『 サブスタンス 』での異様・異形の演技を高く評価する。日本の小説の『 モンスター 』をボディ・ホラーに昇華させ、『 ザ・フライ 』のような着ぐるみとメイクがCGに優る視覚効果を生み出すことを再確認させてくれたのも大きい。

次点

ティモシー・シャラメ

『 名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN 』で反骨のボブ・ディランを体現した。一歩間違えば単なる物真似かつコスプレになってしまうところを、伝記映画として引き締めたのはシャラメの力に依るところが大きい。

次々点

レオナルド・ディカプリオ

かつてのハンサム俳優から、なんでもありの演技派となったディカプリオが、『 ワン・バトル・アフター・アナザー 』で新境地を開拓した。父親の愛情を表現する演技のひとつの基準になったのではないか。

 

2025年最優秀国内俳優

吉沢亮

『 国宝 』の主演によって、ついに代表作を手に入れた。ハン・ソロ=ハリソン・フォード、ロッキー=シルベスター・スタローンのように、立花喜久雄=吉沢亮だと言えるようになった。演技は学問であり、知識であり、技術であるが、それだけではない。渾身の力で演じることが重要なのだと、吉沢の演技は物語っていた。

次点

毎熊克哉

『 桐島です 』で時代に取り残された不器用な逃亡者を好演した。陰のある男がよく似合う、どこか昭和、平成の空気をまとった役者で、この人が出ている作品はハズレが非常に少ない。

次々点

馬場ふみか

『 愛されなくても別に 』で、非常にアンニュイながらも内に秘めたエネルギーの強さを感じさせるキャラを好演した。Jovianのお気に入りの南沙良を役の上で完全にコントロールしていた。おそらく撮影の現場でもそうだったのだろう。さらなる活躍に期待が高まる。

 

2025年最優秀海外監督

ポール・トーマス・アンダーソン

一歩間違えれば壮大なギャグになりかねない『 ワン・バトル・アフター・アナザー 』を、ユーモアと緊張感とスリルと恐怖で2時間40分を1時間40分に体感させるほど凝縮した手腕は見事の一語に尽きる。

次点

MTJJ

『 羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来 』の、徹底して絵で見せる手法と、その根底にある観客への信頼を評価する。言葉ではなく行動で語る鹿野というキャラは、まさにMTJJ監督の申し子とも言うべき存在。

次々点

チョ・ソンホ

『 君の声を聴かせて 』の演出が胸を打った。フェアに伏線を張りつつ、それでいて終盤に観る側を驚かせてくれるという演出のバランス感覚は絶妙だった。

 

2025年最優秀国内監督

李相日

3時間の長丁場をまったく弛むことなく、常にドラマを盛り上げ続けた『 国宝 』の演出を評価したい。歌舞伎の人気を盛り上げ、また兵庫県をはじめとする各地の聖地巡礼を盛り上げるなど、社会現象にまでなった。そうしたムーブメントを起こせる映画は数年に一つ生まれるぐらいである。

次点

平松恵美子

『 蔵のある街 』で、これぞご当地ムービーという作品を届けてくれた。地元出身者を起用するという基本を外す作品が多い中、本作は倉敷出身者をキャスティングしたところも好印象。

次々点

山元環

『 この夏の星を見る 』が示した、オンラインでのつながりが、決して触れ合えない、しかし互いの存在は認識し合える星と星のようだった。触れ合うことなくとも、人は人を照らすことができるということをコロナ禍の最中の青春群像劇として仕上げた手腕は素晴らしかった。

 

2025年海外クソ映画オブ・ザ・イヤー

『 ジュラシック・ワールド/復活の大地 』

前作までの設定をすべて放り出したリセット作品。人間の行動がすべてアホで、なおかつ「それはもう別の作品で見た」という監督の自己満足シーンのオンパレード。時間とカネを無駄にした作品のワースト・ワンに決まりである。

 

次点

『 スーパーマン(2025) 』

魅力に欠ける主人公、そしてそれ以上に魅力とカリスマ性に欠けるヴィランと、せっかくのスーパーマンとレックス・ルーサーという極上の素材がまったく活かされないままに調理されてしまった。

 

次々点

『 ロングレッグス 』

2021年の『 ウィッチサマー 』と同じく、もの珍しさだけで喧伝されてしまった作品。

 

2025年国内クソ映画オブ・ザ・イヤー

『 恋に至る病 』

意味不明な展開に意味不明なキャラ描写。キャラクターたちの行動原理の奥底にあるものを一切描写することなく、そのヒントすらないままに奇行に走っていくキャラたちに頭を抱えるばかり。脚本段階、撮影段階、編集段階、試写と、どこかの段階で誰か突っ込みを入れられなかったのか。

次点

『 ぶぶ漬けどうどす 』

ダメなご当地映画はこうやって作れ、というお手本のようなクソ作品。京都を極めて皮相的にしか理解していない人間が京都を題材にするとこうなってしまうわけだ。脚本家および監督は少なくとも京都に3年は住む、あるいは働いてから本作に取り掛かるべきだった。

次々点

『 果てしなきスカーレット 』

姫たるスカーレットが死者の国で復讐の鬼と化す。これほど面白そうな題材を、何をどうやったらあれほどクソつまならない物語にしてしまうのか。聖のキャラの薄っぺらさ、スカーレットのぶれぶれの姿勢、ご都合主義ばかりのストーリー展開。復讐したい相手がその先に待つという階段を、『 タイタニック 』でジャックに支えられるローズばりに登っていく姿には頭を抱えざるを得なかった。

 

2026年展望

AIが日常生活、学校教育、産業に浸透してきた。当然、映画製作の現場にもその影響は押し寄せている。そこには正の影響も負の影響もあるわけで、技術をどのように受容するのかは業界が試行錯誤して決める、あるいは自然淘汰に任せることになるだろう。映画ファンとしては、AIをホラーあるいはファンタジーではなく、ミステリやサスペンス、あるいはヒューマンドラマの文脈で再解釈した作品が国内外でより多く生み出されることを期待したい。

 

個人的には来年はゲームサントラのコンサートのレビューや、小説や漫画、ビジネス書のレビューにも挑戦してみたい。

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