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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

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『 運び屋 』 -実話を脚色した異色のロードムービー-

Posted on 2019年3月23日2020年3月20日 by cool-jupiter

運び屋 75点
2019年3月17日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:クリント・イーストウッド ブラッドリー・クーパー
監督:クリント・イーストウッド

f:id:Jovian-Cinephile1002:20190323011148j:plain

イチローも引退を決めたようだ。生涯一捕手と今でもサインに書き添えるらしい野村克也の如く、生涯一野球選手を貫いて欲しかったが・・・ そして、ここに生涯一映画人を貫くクリント・イーストウッドがいる。本作の原題は”The Mule”、ラバ、頑固者、麻薬の運び屋などの意味がある。邦題は「 運び屋 」の意を選び取ったようだが、Jovianはクリント・イーストウッドとmuleという言葉の組み合わせに、中学生ぐらいの頃だったか、親父と一緒にVHSで観た『 荒野の用心棒 』を思い浮かべてしまう。果たして本作のイーストウッドは愚直なラバなのか、それとも一筋縄ではいかない凄腕の仕事人なのか。

あらすじ

家庭そっちのけで園芸業に精を出すアール・ストーン(クリント・イーストウッド)は、いつしか事業に失敗し、自宅も差し押さえられてしまった。孫娘の婚約を祝うために訪れた先で、ふとしたことから車を運転するだけで大金が稼げる仕事を紹介される。しかし、それはメキシコの麻薬カルテルの「運び屋」=muleとなる仕事だった・・・

ポジティブ・サイド

麻薬の運び屋と聞けば、どうしてもダークなイメージを抱く。事実、現米大統領のトランプはメキシコとの間に巨大な壁を建てる構想をまだ諦めてはいないようだ。コロンビアからの麻薬流入に関しては『 エクスペンダブルズ 』が、メキシコからの麻薬の流入に関しては『 ボーダーライン 』と『 ボーダーライン ソルジャーズ・デイ 』で描かれていた。日本でも清原和博、ごく最近ではピエール瀧も薬物使用で御用となっている。麻薬は、種類と使い方に依るようだが、癌性疼痛で「殺してくれ!」と叫ぶほどの苦痛に苛まれる人に適切に投与すると、スタスタと自分の足で歩いて「あ、看護師さん、ちょっとおしっこ行ってきます」と言えるほどなるというのが、知人の看護師さんや医師らから聞く麻薬の使い方である。となれば普通の人間が麻薬を摂取すれば、バカボンのパパとは異なる方向でタリラリラ~ンになってしまうのは理の当然である。そのような麻薬を運ぶ仕事を請け負う爺さんを、何故か応援したくなってしまう。その絶妙な仕掛けとは何か。

アールはまず、単なる枯れた爺さんなどでは決してない。ベトナム戦争にも赴いた古強者で、度胸があり、機転が利き、ユーモアを解する心もあり、社交性も高く、そして適度に外の世界に敵というか、憎まれ口を叩き合うような友人にも恵まれている。ただし、そこに幸せな家族の姿は無い。娘の結婚式よりも仕事を優先させ、妻との記念日も顧みることは無い。そんなアールが仕事を失い、カネも失い、住む家も失った時に手に入れた仕事が運び屋だった。アールはそこで得たカネで人生を一つ一つ取り戻していく。カルテルの手先のチンピラに時には説教をし、時には世俗の歓楽を共に享受する。黒人家族にniggaと爽やかに言い放つ。相手によって態度を変えることなく、自然体を貫く。その姿に観る者は憧憬と尊敬の念を抱く。泰然自若。事において動ぜず、淡々と、しかし楽しみながら仕事に打ち込む姿は、男のあるべき姿ではないだろうか。クリント・イーストウッドの俳優人生の集大成がここにあるとの宣伝文句は誇大広告ではなかった。

そんなアールを追い詰めんとするDEAの捜査官には、ブラッドリー・クーパー、ローレンス・フィッシュバーン、そして新鋭と言っても良いマイケル・ペーニャ。特にブラッドリー演じる捜査官とイーストウッド演じる運び屋の仕事と人生が交錯する時、我々は人生における仕事の意義を思わず自らに問いかけてしまう。自分は、彼らのうちのどちら側の人間なのだ、と。何気ない日常のワンシーンが非常にサスペンスフルに仕上がっている。映画の世界に没入しながら、冷静に自分というものを考えるという得難い経験をすることができた。

本作はお仕事ムービーであると同時に、ロードトリップを堪能する映画でもある。アールの仕事と共に、数々の往年の名曲が作品世界を彩る。John Denverの“Take Me Home, Country Roads”のように、眼前に雄大な自然、wildernessが浮かび上がるかのような感覚がもたらされる。これは『 グリーンブック 』からも得られた感覚だが、本作はそれが更に顕著である。『 荒野の用心棒 』や『 続・夕陽のガンマン 』といった、若かりし頃のイーストウッドが無窮のアメリカの大地を旅する光景が蘇ってくる(と言っても、決してリアルタイムでそれらを観たわけではないが)。何度でも言うが、これは正にイーストウッドの集大成だ。

ネガティブ・サイド 

終盤のアールと妻の交わす会話に、不意に涙がこぼれた。アールは稼いだ金で人生を取り戻していったわけだが、妻の心を完全に取り戻せてはいなかったからである。これは事実なのだろうか。もしそうなら、仕方がない。しかし劇作上の脚色あるいは創作であるのなら、こんな残酷な話は無い。一部の映画ファンは間違いなくアールの姿に自身を重ね合わせる。アールの生き方に共鳴する。その結果がこれでは・・・ 自分がこれほどショックを受けているということそれ自体が、脚本家からすれば「してやったり」なのかもしれないが・・・

エンディングのショットも個人的には納得がいかない。アールがlate bloomerだったという比喩には受け取りたくない。

そのエンディングにおいて、この物語のインスピレーションの源泉となった事件および人物を、ほんの少しで良いので掘り下げる絵が欲しかった。『 ボヘミアン・ラプソディ 』のように、ピークのその後をほんの少しで良いので描写してほしかったものである。

総評

これは傑作である。クリント・イーストウッドファンのみならず、コアであろうがライトであろうが、あらゆる層の映画ファンに観てもらいたいと思う。特に壮年以降のサラリーマンには刺さるだろうと思われる。もし本作で運び屋家業に興味を持たれた方がいれば、水沢秋生著の『 運び屋 一之瀬英二の事件簿 』をお勧めしたい。仕事とは何かについての考察を深めたいなら、『 きばいやんせ!私 』よりも、こちらの小説の方が面白いし役立つだろう。何より水沢秋生氏はJovianと同郷にして、大学の寮の先輩なのである。

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, B Rank, アメリカ, クリント・イーストウッド, サスペンス, ヒューマンドラマ, ブラッドリー・クーパー, 監督:クリント・イーストウッド, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画

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