正体 60点
2024年11月29日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:横浜流星
監督:藤井道人
藤井道人監督作品ということでチケット購入。
あらすじ
死刑囚の鏑木慶一(横浜流星)が脱走、警察の目をかいくぐり、仕事をしながら逃走を続けていた。逃亡先で出会う人々と交流を深めながらも正体がばれて逃げ続ける鏑木。彼にはある目的があり・・・
ポジティブ・サイド
そもそも逮捕・勾留されている犯罪者がそんなに簡単に逃げられるのかと思うが、Jovianは大阪の富田林署から脱出し、数十日の逃走後に山口県で捕まった男性を思い出した。なので鏑木の逃走劇およびその後の潜伏にもリアリティを感じることができた。
最初の潜伏先がなにわ万博の建設現場だというのも生々しい。『 BAD LANDS バッド・ランズ 』や『 さがす 』で描かれた西成区のような場所は、素性も経歴もどうでもいい日雇い労働者の供給先だからだ。我が町尼崎の南の方も昔はそうだった。
まるで韓国映画であるかのように警察が無能だが、その根源は松重豊演じる警視総監?または捜査一課長。推測することしかできないが、『 拳と祈り -袴田巖の生涯- 』の袴田さんもそんないい加減な采配で犯人扱いされたのではなかっただろうか。
追う刑事の山田孝之の芝居も抑制的でよかった。台詞ではなく表情や行動で内なる想いを表出させていたのが印象的。特に記者会見で、すぐ横にいる上司への不信感と国民に対する謝罪および協力の呼びかけをするためのプロフェッショナルの顔を両立させていたのは見ごたえあるシーンだった。
SNSから身バレし、しかしSNSを活用することで注目を集め世論を喚起する。まるで最近のどこぞの県知事選のようだが、終盤の立てこもりにもリアリティが認められた。
鏑木と交流するキャラの中では吉岡里穂演じる記者の父親役が印象に残った。以前の勤め先で京都弁護士会所属の大御所二人が痴漢に間違われた際の対応について、一人は「身元を明らかにして立ち去る」、もう一人は「その場にとどまって弁護士を呼ぶ」だった。なので弁護士が対応を誤ることもありえるし、実際にこうした描写を入れることで鏑木についた弁護士が無能だった、あるいは対応を誤ったと間接的に示す効果もあった。
ネガティブ・サイド
普通に考えて、逮捕から死刑の確定までが早すぎる。弁護士が超絶無能だったとしか考えられない。衣類に残る血痕の量や、実際の血液型鑑定などをすれば鏑木が犯人ではない可能性は相当に高いはず。警察および検察はどう証拠を捏造したというのか。警察は鏑木の育った施設をマークするよりも、担当弁護士の事務所および自宅をマークすべきと考えるべきではなかったか。
吉岡里帆と同居するようになってからの流れがやや雑だと感じられた。アラサーのバリキャリ女子が二十歳少々の若造を居候させていく中で、偶発的に、または意図的に背中のやけどの跡を見るとか、もう少し那須(で漢字は合っている?)の「正体」に関わるヒントを提示すべきだった。
鏑木が逃亡中に一重まぶたにするシーンがあったが、次の瞬間にはもう二重に戻っていた。いくらなんでも編集が乱暴すぎると感じた。
とある介護施設が重要拠点になるのだが、これも割とすぐにメディアあるいはフリーランサーが突き止めそうなものだが。実際に調査力に秀でた嫌な個人記者も出てきているのだから。
兎にも角にもトレーラーがほとんど全部ネタバレだった。物語上の重要なシーンや台詞の多くがすでにトレーラーにあり、重要なシーンの流れや台詞がすべて分かってしまい、正直なところかなり白けてしまうことが多かった。予告は宣伝会社・担当が作るのかな。『 六人の嘘つきな大学生 』のトレーラーも決して良くない出来栄えの上にネタバレが潜んでいた。トレーラーも藤井道人監督自身が手掛けてはどうか。
総評
予告編を一切観ることなく鑑賞すれば印象は全く違ったはず。決して直接的ではないが、それゆえに力強いメッセージを発するという藤井監督の演出は随所で光っている。それゆえにストーリー展開の意外性が損なわれたことが余計に残念に感じられる。トレーラーは正式には teaser trailer と言う。tease とは「焦らす」の意味。情報は小出しにしてナンボ。これから鑑賞する人は可能な限り事前情報をカットして鑑賞されたし。
Jovian先生のワンポイント英会話レッスン
be on the run
逃走中である、の意。警察や敵兵から逃げている状態を指す。ちなみに潜伏中であるという場合はbe in hidingがよく使われる。英語の映画ではニュースのアナウンサーがよく使っている表現である。
次に劇場鑑賞したい映画
『 他人は地獄だ 』
『 最後の乗客 』
『 アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師 』