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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

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『 記憶汚染 』 -記憶=歴史の一貫性を揺るがす野心作-

Posted on 2024年11月26日 by cool-jupiter

記憶汚染 70点
2006年11月ごろに読了
著者:林譲治
発行元:早川書房

18年前に読んだ小説だが、最近あった強烈な出来事に関連して紹介したい。

あらすじ

土建会社社長の北畑は、奈良の弥生遺跡から謎の文字板を発見するが、なぜかそれは200年前のものと推定された。いっぽう痴呆症研究に従事する認知心理学者・秋山霧子は、人工知能の奇妙な挙動に困惑していた。2つの事象が交わったとき、人類の営為そのものを覆す驚愕の真実が明らかになる・・・(早川書房ホームページより)

ポジティブ・サイド

最近あった強烈な出来事とは兵庫県知事選のことである。本来ここは映画や書籍の感想を語る場だが、たまには政治的な思想を開陳するのもありだろう。

まず前かつ現知事の斎藤元彦の再選には愕然とした。別に自分が尼崎市民で稲村さんを応援していたからではない。現にJovianは大澤芳清に一票を投じた。別に彼を支持しているわけではなく、共産党系の候補の票が伸びる=他の候補者が緊張感を持つ、と考えているだけだ。

まあ、そんなことはどうでもいい。『 記憶汚染 』は2003年刊行のSF作品で、物語の舞台は2040年に設定されている。そこではワーコンと呼ばれるウェアラブル・コンピュータが一般に普及している。本作にはウェアラブル・コンピュータ以外にも人工知能やインターネットを更に超えたようなネットワーク社会が描かれている。要するに、本当に2040年にありえそうな社会なのだ。

しかし本書の一番のポイントは、タイトルにもある通り「記憶」である。人間だれしも強烈に脳裏に焼き付いている記憶があるだろう。入学式に見た桜かもしれないし、初恋の人の笑顔かもしれない。しかし、二日前の夕食が何だったのか即座に思い出せるだろうか。思い出せたとして、本当にその記憶は正しいのか。人間の記憶はいい加減なもので、都合よく美化されたり、あるいは消去されたりする(後者は「記憶にございません」を連発する政治家たちを見る限り、かなり怪しいのだが)。

そこで人類は近代になって「記憶」をアウトソースするようになった。外注先は言わずもがなのコンピュータ。コンピュータはどんなに進化しても、基本的には「計算(演算)」と「記憶」だけしかできない。その記憶のかなりの部分を、個人でも集団でも我々は意識的かつ無意識にパーソナルなコンピュータおよびYouTubeやFacebook、Instagramといったプラットフォームにどんどんと任せるようになっているのが現代という時代である。

そこで話は兵庫県知事選となる。生粋の斎藤支持者が10万人いたとして、さらに100万が彼に票を投じた背景は色々と現在進行形で語られている。大きな枠組みとしては、オールドメディア(新聞やテレビ) vs ソーシャル・メディア(旧ツイッターetc)というものがよく挙げられている。オールドメディアが報じていない情報がSNSでは手に入る。そちらが実は真実なのでは?と思い込んだ人々がエコーチャンバーに入ってしまい、斎藤支持に転向してしまったという論理である。

それも一理あると思うが、もっと注意しなければならないのは、我々の多くが自分自身の記憶および演算(=思考と言ってもいいだろう)に信を置けなくなっていることだろう。うちの職場は関関同立出身者だらけで、それなりに高学歴という連中ばかりのはずだが、それでもいとも簡単に斎藤が内部告発者を自分の指示で探し出し、片腕たる副知事にガン詰めさせたことを忘れてしまうのだ。この一事だけで権力者不適格なのだと判断できないことが嘆かわしいし愚かしい。ただ偏差値60の大学を出ていてもYouTubeの動画やXのポスト・リポストの嵐の中で記憶がゆがみ、正常な判断ができなくなるのだから、兵庫の有権者100万人が斎藤支持に転向してしまってもおかしくはない。

まあ、何が言いたいかと言うと、本作に登場する様々なガジェットや社会の在りよう、そして我々の記憶、さらに歴史というものの存立そのものをも揺るがすようなプロットは、ゼロ年代ではSF的だったが、2020年代の今なら『 本心 』と同じくらいの距離感に感じられるはず。今こそあらためて読んでほしい小説である。

ネガティブ・サイド

SFあるあるなのだが、本作のキャラクターおよびキャラ同士の人間関係、人間模様はたいして面白くない。また語り口もかなり重たく、読後にやや閉口した記憶がある。

また物語のペーシングにも難あり。たしかラストの数十ページでかなり強引に話をまとめてしまったと記憶している。再読したいのだが、本の山の中から見つけられず・・・ Jovianのこの記憶も案外不正確だったりして・・・ そうならないようにブログを始めたのだが、これも知らぬ間にハッキングされて、シレっと書き換えられた過去記事を読んだりして「ああ、そうだったなあ」と都合よく解釈したりしてもおかしくはない。

総評

実はずっと本作は飯田譲治の作品だと思い込んでいた。そのためFacebookでも「飯田譲二の『 記憶汚染 』」のように漢字まで間違えた書き方をしてしまっていた。ことほど然様に人間の記憶は当てにならない。Jovianもエラソーに色々と言っているが、日記でもブログでもFacebookでもX(旧ツイッター)でもなんでもいいので、自分という記憶と演算の一貫性を保証するものを持つ、そのうえでそうした媒体が持つ危うさに自覚的になることが現代では求められている。本書は20年近く前にそのことについて警鐘を鳴らしていたわけで、現代でも読む価値が損なわれていないSF作品と言える。

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

social media

日本語ではよくSNS=social networking serviceと言うが、これは英語ネイティブにはほぼ通じない。英語では social media という言い方が支配的で、SMなどと略すこともない(文脈次第だがsadomasochisticだと解釈される恐れあり)。中上級者でもたまに I don’t use any SNS. と言う人がいるが、通じないので I don’t use any social media. と言うようにしよう。

次に劇場鑑賞したい映画

『 他人は地獄だ 』
『 最後の乗客 』
『 正体 』

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Posted in 国内, 書籍Tagged 2000年代, SF, 日本, 発行元:早川書房, 著者:林譲治

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