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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 監督:平川雄一朗

『 約束のネバーランド 』 -漫画実写化の珍品-

Posted on 2020年12月21日 by cool-jupiter
『 約束のネバーランド 』 -漫画実写化の珍品-

約束のネバーランド 20点
2020年12月19日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:北川景子 浜辺美波 板垣李光人
監督:平川雄一朗

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私的年間ワースト候補の『 記憶屋 あなたを忘れない 』の平川雄一朗がまたしてもやらかした。原作漫画は未読(Jovian嫁は序盤だけ読んだ)だが、それでも色々とストーリーが破綻しているのは明白である。

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あらすじ

グレイス=フィールドハウス孤児院ではママ・イザベラ(北川景子)によりたくさんの子ども達が養われ、里親に引き取られる日を待っていた。ある日、里親に引き取られたコニーが忘れたぬいぐるみを届けようとエマ(浜辺美波)とノーマン(板垣李光人)は孤児院の門へと向かった。そこで彼女たちが目にしたのは、コニーの死体、人を食らう巨大な鬼、そしてママ・イザベラだった・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20201221005928j:plain
 

ポジティブ・サイド

孤児院の建物および周囲の自然環境が素晴らしい。ウィリアム・メレル・ヴォーリズが設計した西洋建築だと言われても全く驚かない。また草原および森林も風光明媚の一語に尽きる。陽光とそよかぜ、そして鬱蒼とした森はまさに別天地で、現実離れした孤児院の設定に大きなリアリティを与えている。

 

浜辺美波の顔と声の演技は素晴らしい。嫁さん曰はく、「漫画と一緒」ということらしい。嫁さんの評価は措くとしても、イザベラとの探り合いで披露する「演技をしているという演技」は圧巻。20歳前後の日本の役者の中では間違いなくフロントランナーだろう。ノーマン役の板垣李光人も良かった。オリジナルの漫画を知らなくとも、原作キャラを体現していることがひしひしと伝わってきた。

 

北川景子と渡辺直美の大人キャラも怪演を披露。特に渡辺の演技は一歩間違えれば映画そのもののジャンルをホラー/ミステリ/サスペンスからコメディ方向に持って行ってしまう可能性を秘めていたが、出演する場面すべてに緊張の糸を張り巡らせていた。北川景子も慈母と鬼子母神の二面性を見事に表現していた。彼女のフィルモグラフィーに今後くわえるとすれば『 スマホを落としただけなのに  』の被害者のような役ではなく、逆にサイコなストーカー役というものを見てみたい。

f:id:Jovian-Cinephile1002:20201221005952j:plain
 

ネガティブ・サイド

 

以下、マイナーなネタバレに類する記述あり

 

演技者の中で断トツに印象に残ったのは城桧吏。好印象ではない。悪印象である。『 万引き家族 』では元々無口な役柄だったせいか悪印象は何も抱かなかったが、今作の演技はあらゆる面で稚拙の一言。はっきり言って普通の中学生が暗記した台詞を学芸会でしゃべっているのと同レベル。これが未成年でなければ、返金を要求するレベルである。普段から発声練習をしていないのだろう。表情筋の動かし方も話にならない。能面演技とはこのことである。身のこなしも鈍重で、数少ないアクションシーン(殴られるシーンや回し蹴り)でもアクションが嘘くさい。本人の意識の低さにも起因するのだろうが、それ以上に周囲のハンドラーの責任の方が大きい。本作に限って言えば、これでOKを出した平川監督に全責任がある。クソ演技・オブ・ザ・イヤーを選定するなら、城桧吏で決定である。

 

頭脳明晰な年長の子ども達とママ・イザベラとの頭脳戦・神経戦が見どころとなるはずであるが、そこにサスペンスが全く生まれない。3人で密談するにしても、ハウス内の扉も閉まっていない部屋で、秘密にしておくべき事項をあんなに大きな声で堂々と話すのは何故なのか。「壁に耳あり障子に目あり」という諺を教えてやりたい。だったら屋外で、というのもおかしい。ママ・イザベラは発信機を探知する装置を常に携帯しているわけで、誰がどこにどれくらいの時間集まっているのかは、探ろうと思えば簡単に探れるわけで、密談をするにしても、その時間や場所や方法をもっと吟味しなければならないはずだ。例えば3人の間でしか通用しないジャーゴンや暗号を交えて話す、手紙や交換日記のような形式でコミュニケーションするなど、ママの目をかいくぐろうとする努力をすべきではなかったか。ミエルヴァなる人物が送ってきてくれた本から、いったい何を読み取ったというのか。もちろん、この部分をある程度は納得させてくれる展開にはなるのだが、そこまでが遅すぎるし、途中の展開にはイライラさせられる。

 

シスター・クローネの扱いにも不満である。渡辺直美演じるこのキャラおよび他キャラとの絡みはもっと深掘りができたはず。途中で退場してしまうのが原作通りのプロットであるならば仕方がない。だが、彼女がエマやノーマンやレイに見せつけた心理戦の駆け引き、その手練手管がエマにもノーマンにも伝わっていない。その後に見事にママを出し抜くのはストーリー上の当然の帰結として、そこに至るまでの過程には必然性も妥当性もなかった。本当にこいつらは頭脳明晰なのか。仮に鬼のテリトリーを脱出して人間の世界に入れたとしても、これでは人間に騙されて別のプラントにさっさと収容されて終わりだろう。

 

最後の脱出劇も無茶苦茶もいいところだ。あるアイテムを使うこともそうだが、それ以上に、カメラアングルが変わった次の瞬間にロープの片側がありえない地点に固定されていることには失笑を禁じ得なかった。そんな技術と身体能力があるのなら、それこそ回りくどく迂回などせず、正攻法で谷を降りて崖を昇れば済むではないか。

 

建築や自然が素晴らしかった反面、小道具のしょぼさや不自然さにはがっかりである。特にこれ見よがしに出てくる大部の書籍は、どれもただの箱にしか見えなかったし、実際にただの箱だろう。開けられるページは常に最初のページのみ。手に持った時の重みの感じやページ部分がたわむ感じが一切なかった。外界とほぼ完全に隔絶されたハウスに、ボールペンや便せんといった消耗品がたくさん存在するところも不自然だし、食料も誰がどこでどのように調達しているのだ?原作には説明描写があるのだろうが、映画版でそれを省く理由はどこにもない。世界の在り方をエマたちと共に観客も知っていく過程にこそ面白さが生まれるのだから、この世界観を成立させるためのあれやこれやの小道具大道具はないがしろにしてはならないのである(大道具は頑張っていたと評価できる)。

 

劇中ではずっと“脱獄”と言われているが、別に監禁や留置をされているわけではないだろう。正しくは脱走または脱出と言うべきだが、これについても何も説明がなかった。全編を通じて、正しい日本語が使われておらず違和感を覚えまくった。

 

アメリカのヤングアダルトノベルの映画化『 メイズ・ランナー 』の劣化品で、実写化失敗の『 進撃の巨人 ATTACK ON TITAN 』と並ぶ邦画の珍品の誕生である。

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総評

予備知識がほぼゼロの状態で観に行ったが、映画を通して原作の良いところと悪いところが結構見えたような気がする。おそらく原作漫画ファンでこの映画化を喜ぶのは10代の低年齢層だろう。そうした層をエンターテインしようとしたのなら、平川監督の意図は理解できるし、実写化成功と評しても良い。だが、上で指摘したような欠点の多くを改善することで、10代の若い層が本作を楽しめなくなるか?ならないと勝手に断言する。そうした意味では、平川監督は流れ作業的に映画を作った、原作ファン以外のファン層を開拓する努力を怠ったことになる。2021年も邦画の世界は小説や漫画の映画化に血道を上げ続けるのだろうが、それをするなら一定以上の気概と技術を持って欲しいものである。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

edible

食用の、食べられる、の意。一応辞書には載っているが、eatableとはまず言わない。同じようにdrinkableもほとんど使われない。飲用可能はpotableと言う。portableとしっかり判別すること。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, E Rank, アドベンチャー, サスペンス, ミステリ, 北川景子, 日本, 板垣李光人, 浜辺美波, 監督:平川雄一朗, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 約束のネバーランド 』 -漫画実写化の珍品-

『 記憶屋 あなたを忘れない 』 -The Worst Film of 2020-

Posted on 2020年1月30日2020年1月30日 by cool-jupiter

Kioku-ya: Anata wo wasurenai / The Memory Eraser: Forget You I Will Not  10/100
At MOVIX Amagasaki, on January 30th, 2020
Main Cast: Ryosuke Yamada, Kuranosuke Sasaki, Kyoko Yoshine
Director: Yu-ichiro Hirakawa

 

記憶屋 あなたを忘れない 10点
2020年1月30日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:山田涼介 佐々木蔵之介 芳根京子
監督:平川雄一朗

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I assumed Signal 100 was the front-runner to be chosen as the worst film of the year, but surprise surprise, there will always be something far worse. This film is the worst one by far I’ve seen in the last five years.

 

『 シグナル100 』が国内クソ映画オブ・ザ・イヤー候補かと思っていたが、それをさらに上回る駄作がもうすでにあったとは驚きである。本作は、過去5年にJovianが鑑賞した作品の中でも群を抜いて駄作である。

 

Plot Summaries

Ryoichi – played by Ryosuke Yamada – is a college student who is going after the person called Kioku-ya, The Memory Eraser. His girlfriend’s memory of Ryoich was erased, and since then, he has been seeking clues of The Memory Eraser with the aim of restoring her lost memory…

 

あらすじ

大学生の遼一(山田涼介)は記憶屋を追っている。恋人の記憶から、遼一に関するものが消されてしまったのだ。以来、彼女の失われた記憶を取り戻そうと遼一は記憶屋に関する手がかりを探し求めるが・・・

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Warning: Mild Spoilers Ahead!

 

注意!軽いネタバレあり

 

Positives

Sorry, no positives to mention. That’s proof of how awful this film is.

 

ポジティブ・サイド

残念ながら無い。それが、この映画の酷さを証明していると言えるだろう。

 

Negatives

First of all, what’s the heck is with lawyers and medical doctors in this movie’s world? Don’t they know a jack shit about what the duty of confidentiality is all about? It’s OK to give away a little bit of information, because we are all human and to err is human. Nobody is impeccable. With that being said, there is absolutely no need to write down on the whiteboard every F-ing detail of the victims of the criminal cases. There is something wrong with the doctor’s head, too. What’s the point of allowing a girl’s boyfriend to be right there while asking her some serious questions? A doctor should have no problem anticipating a flashback especially when dealing with a patient who could be deeply traumatized. Why no female doctors? Why not allowing her to lie down during the medical interview? The stupid and senseless boyfriend should know better.

 

The problem with this film is that the true identity of The Memory Eraser is so blatantly obvious that avid movie-goers will find out who it is only about 15 minutes into the film. Nevertheless, no characters picked up on the clue that leads to The Memory Eraser until much later, which I didn’t like at all. All you have to do is connect the dots, and no one fucking does it. Why?

 

I am also unhappy with the sequence where Ryoichi makes his sincere apology for what he thought was a terrible mistake. However, they say that kidnapping was rampant in the area in those days. Nonetheless, the adults in the area allowed their 5 – 6 year-old children to go outside AT NIGHT, ON THEIR OWN, so that they could go see a fireworks event. WTF? Heck, it wasn’t Ryoichi’s fault. It was the adults and the police who were to blame. And the ex-cop old man just saying to Ryoich, “It has fallen under the statute of limitations.” is simply unthinkable and unacceptable. This man really has dementia. If not, he should have turned in his badge waaaaay before his retirement.

 

Ryoich’s odyssey for The Memory Eraser culminates at the lowest of the low point. It was such an anti-climactic ending sequence. With this, the director and the screenwriter didn’t seem to give much thought to the impact of what happens at the end on the people around the main characters. I also found it extremely difficult to relate to any of the characters, and almost all of the things they did in the course of this entire story didn’t come across as compelling or meaningful. I could not help but get up from the seat and leave the theater as soon as the ending credit began to roll.

 

I could keep talking forever, but I want to wrap all this up by saying that I have no idea why this film exists.

 

ネガティブ・サイド

まず、この物語世界における医師や弁護士の職業倫理はどうなっているのか。守秘義務という概念が存在しない世界なのか。いや、多少の秘密をばらすのは人間のやることだから許容できる。だが、どこの誰がどんな事件でどんな被害を受けたのか、それを事細かくホワイトボードにでかでかと記しておく必要が一体どこにあるのか。医師も頭がどうかしている。心因性の記憶障害だとしても、いやしくも脳外科医であるならば女性医師に変わるか、あるいはフラッシュバックを予期してベッドに寝かせて問診するだろう。いや、そもそもボーイフレンドは同席させないだろう。いくら親密とはいえ、親や保護者ではないのだ。

 

また記憶屋の正体があまりにも簡単に分かってしまうにも問題である。ちょっと映画を見慣れた人であれば、開始15分で記憶屋が誰であるかが分かってしまうだろう。にもかかわらず、登場人物の誰も記憶屋につながるヒントに物語後半まで気が付かないということが不満である。点と点をつなげば記憶屋の正体は自ずから明らかなのに、何故そうしない?

 

主人公の遼一が過去の自分の過ちを詫びるシークエンスにも納得がいかない。誘拐事件が地域で頻発している。にもかかわらず当時の大人たちは未就学児童の集団を夜に外出させ、花火大会に行かせた。悪いのは遼一ではなく、大人たちであり、注意喚起を怠った警察である。遼一の謝罪を「時効だ」と言って流してしまう元・警察官の爺さんは、本物の認知症である。さもなければ、無責任極まりない警察官である。

 

主人公の遼一の記憶屋を求める旅の終着点、その結末。そのことが周囲にもたらす影響について何らの考察もされていないように思える。はっきり言って、登場人物の誰にも感情移入できないし、彼ら彼女らの行動原理がこれっぽっちも理解できない。エンドロールが始まって、すぐに席を立ってしまった。

 

このままいくらでも酷評を続けていくこともできるが、きりがないので以下をもって結論とする。Jovianは何故この映画が存在できるのかが分からない。

 

Recap

This is a complete disaster. Hardly anything in this film makes sense, and I was fed and fed and fed with so much meaningless information till the end. I say this film is a steaming load of bullshit. Only those who are gullible and naive are encouraged to buy a ticket and check this out.

 

総評

完全なる失敗作である。劇中で起こるほとんどの出来事の意味が分からない上に、意味のない情報ばかりを次から次へと終わりまで与えられ続ける。これはもうデタラメもいいところの作品である。極めて無邪気な人だけがチケットを買って鑑賞すべきなのだろう。

追記

遼一も弁護士も記憶屋を追うなら綿密に記録を残せ。それぐらいの自衛行為は当たり前だ。『 リピーテッド 』を観ろ。もしくは新城カズマの小説『 サマー/タイム/トラベラー 』を読め。

また記憶屋が仕事をしようがしまいが、遼一のところには警察なり何なりが来るだろう。それとも、この物語世界の警察は無能の集団だから、来ないのだろうか。

エンディングも酷い。『 バタフライ・エフェクト 』を模したつもりだろうか。そんな名作に張り合おうとするよりも前に、まずは『 パラレルワールド・ラブストーリー 』と勝負してはどうか。それでも本作の方が劣るだろう。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2020年代, F Rank, ヒューマンドラマ, 佐々木蔵之介, 山田涼介, 日本, 監督:平川雄一朗, 芳根京子, 配給会社:松竹Leave a Comment on 『 記憶屋 あなたを忘れない 』 -The Worst Film of 2020-

『 春待つ僕ら 』 -あまりにも薄っぺらいバスケと恋愛のコラボ-

Posted on 2018年12月26日2019年12月6日 by cool-jupiter

春待つ僕ら 40点
2018年12月16日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:土屋太鳳 北村匠海 小関裕太
監督:平川雄一朗

f:id:Jovian-Cinephile1002:20181226021500j:plain

巷間言われて久しいが、土屋太鳳は本当にもうそろそろ女子高生役は卒業すべきだ。せっかく『 累 かさね 』で一皮むけたところを見せながら、これでは元の木阿弥ではないか。彼女のハンドラー達は何をやっているのだろうか。また、今作も漫画を映画化するにあたって、漫画的な文法を取り入れている。映画と漫画は異なる媒体なのだから、世の映画監督たちはもっと原作者と突っ込んだ議論を行い、おおいに芸術論を戦わせればよい。原作者や原作ファンをリスペクトすることと、彼ら彼女らに阿ることは全くの別物なのだ。

 

あらすじ

春野美月(土屋太鳳)は引っ込み思案な女子。しかし、高校入学を機に自分を変えようと思い、周囲に溶け込もうと努力するも空回り。そんな時、バイト先のカフェで同じ高校のバスケ部の面々と知り合うことに。バスケ部と過ごすうちに確かな変化を実感する美月の前にしかし、幼馴染が現れて・・・

 

ポジティブ・サイド

どうしても題材として同じ競技を扱う『 走れ!T校バスケット部 』と比較せずにはいられない。バスケをプレーしているシーンに限っては、本作の圧勝である。T高の方は、あまりにも珍妙なプレーシーンが多かったし、何よりもストーリーとバスケの試合内容が噛み合っていなかったのが致命的だった。本作は、役者連中にかなりバスケを練習させたと見え、一連のプレーやシュートシーンに合成の類はほとんど無かったように見えた。これは大きな加点材料だ。特に北村匠海と磯村勇斗は意外にバスケの動きが様になっている。経験者なのだろうか。

 

また小関裕太も良い味を出すようになった。演技力には改善の余地があるが、何を観ても金太郎飴的な演技しかできないアイドルやなんちゃって役者が跳梁跋扈する日本映画界で、それなりに幅のある役を任せられる(それらを見事に演じ切っているかどうかは別にして)というのは、ポテンシャルが認められてのことだろう。本作でもかなりユニセックスな演技を披露してくれる。来年か再来年には、『 クローズ 』に出ていそうなヤンキー役をやってくれないだろうか。

 

ネガティブ・サイド

これでもかというぐらい欠点や弱点がある作品だが、それらを全て指摘することに意味は無い。なので、どうしてもこれだけは見逃せない、許せないという類のものに焦点を当てたい。

 

まず第一に、北村匠海のキャラ、永久に「寝たらなかなか目覚めない」などという属性付けは必要だったか。そんな『 SLAM DUNK 』の流川の二番煎じキャラに何の意味があるのだ?原作がそうなっているからといって安易にそれを踏襲し、そして肝心の映画ではその属性に何らかの意味があったのだと感じさせるシーンがゼロと来れば、監督に文句の一つや二つも言いたくなる。10巻以上の漫画の物語を2時間という尺に過不足なく収めるのは至難の業だ。それこそが脚本や監督の腕の見せ所のはずなのだが・・・ また同じシーンで美月が「起きて!!」と大声を出すシーンがあるが、これも必要だったか?引っ込み思案で内気な少女が、友情に触れることで変わり、成長し、仲間の応援のために心の底から大声を張り上げられるようになる、という余りにも分かりやすい展開のために、美月の大声はもっと後までとっておくべきではなかったか。といっても、トレイラーで件のシーンはしこたま強調されているので、今更そんな指摘をしても詮無いことではあるのだが。

 

バスケのプレーについては、それなりにリアリティのある絵を撮れていたものの、その他の描写が弱い。というよりも首を傾げざるを得ないものもある、というのが残念である。例えば、いくらアメリカ帰りのバスケの申し子とはいえ、シュート成功率90%はないだろう。NBAのトップ中のトップでもフリースロー成功率が90%を超えるのはイースタン、ウェスタン、両カンファレンス合わせても毎年10人にも満たないはずだ。それこそシャキール・オニールを日本の高校に連れて来てプレーさせでもしない限り、そんな数字は絶対に生まれない。漫画は漫画であるが、映画とは大きな嘘をつくために細部のリアリティに徹底的にこだわりぬかねばならないのである。

 

最後に、永久と亜哉の 1 on 1 のシーン。何度も倒され、顔に泥がついた永久のシャツがびっくりするぐらい真っ白なのはどういうことなのだろうか。また、「チャラくは無いな、皆マジでバスケやってるから」と豪語する部員たちのスポーツバッグが、夏を過ぎても新品同様にしか見えないのは何故なのか。運動部の連中がバッグを使いこめば、数カ月もすれば、あちらこちらに擦り傷や綻びが目立ってくるものだ。そうした、バスケに費やした時間を観る者に感じさせる小道具が一切出てこないのが最大の減点材料だ。平川監督はそれなりにキャリアがあるが、もう一度、映画監督の仕事とは作品世界を存立させるに足るリアリティを担保することであるということを勉強し直してほしい。

 

総評

40点なのか45点なのか悩んだが、総合的には『走れ!T校バスケット部』と同点か。バスケシーンでは本作の勝ち。バスケ以外のリアリティはT高の方が上。しかし、良作とも光るところはあるものの、欠点の方が大きく目立った。土屋や北村のよほどのファンでなければ、わざわざ劇場でチケット代を払ってまで観ることはない。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, D Rank, スポーツ, 北村匠海, 古関裕太, 土屋太鳳, 日本, 監督:平川雄一朗, 配給会社:ワーナー・ブラザース映画Leave a Comment on 『 春待つ僕ら 』 -あまりにも薄っぺらいバスケと恋愛のコラボ-

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