ドクター・スリープ 75点
2019年11月30日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ユアン・マクレガー カイリー・カラン レベッカ・ファーガソン ダニー・ロイド
監督:マイク・フラナガン
『 シャイニング 』の続編である。いきなり本作から観る人は少数派だろうが、もし可能なら『 ダーク・タワー 』や『 IT イット 』シリーズも事前に鑑賞されたし。というのも本作は『 シャイニング 』のその後の物語であり、スティーブン・キングの創造世界の一端でもあるからである。
あらすじ
母との死別後、展望ホテルの悪夢から逃れるために酒に溺れていたダニー(ユアン・マクレガー)。 “シャイニング”を始め、様々な力を持つアブラ(カイリー・カラン)という少女。その力を狙うローズ・ザ・ハット(レベッカ・ファーガソン)ら人外の者たち。“シャイニング”で通じあったダニーとアブラは、戦いに身を投じていく・・・
ポジティブ・サイド
『 プーと大人になった僕 』では、Jovianの同僚のイングランド人に「あれはクリストファー・ロビンじゃない」と酷評されてしまったユアン・マクレガーだが、今回は実に良い仕事をしたと言えるし、ビジュアル面でもダニー・トランス(ダニー・ロイド)の成長した姿であると充分に受け入れられる。『 シャイニング 』で怯える母をまさしく狂演したシェリー・デュバル、子役の演技としては最高峰のものを見せたダニー・ロイド、シャイニングをダニーに教えたハロランさん(スキャットマン・クローザース)と容貌も話し方も瓜二つのキャストを使って、前作のエンディング後を序盤に描いたことで、本作と前作が地続きの世界であるということに充分な説得力が生まれた。
レベッカ・ファーガソンも人外の化生を率いるローズ・ザ・ハットを巧みに演じていた。アメリカやカナダはとにかく子どもの誘拐が頻発する(その犯人の多くは親だったりする)国で、テレビを観ていると、結構な頻度でアンバーアラートが出る。そうしたことは『 白い沈黙 』(監督:アトム・エゴヤン 主演:ライアン・レイノルズ)や『 アメイジング・ジャーニー 神の小屋より 』などの作品からもよく分かる。同時に天才を発見することにも長けた国である。そのことは『 ドリーム 』や『 ギフテッド 』などから分かる。S・キングは児童の不可解な蒸発に対して、真結族という答えを用意した。そこに説得力があるのが、原作者キングの手腕である。我々の生きる世界は、様々に数多く存在する世界の一つに過ぎないことは彼の他の作品からも明らかである。そうしたキングの世界観をマイク・フラナガン監督は巧みに再現した。例えば、日本人が本作を観れば、「狐憑きも、もしかして“シャイニング”の一種なのか」と感じるだろう。
本作に特徴的なのは、“シャイニング”という能力がより広がった、あるいは深まったところだろう。そして、それを体現したアブラの活躍が印象的だ。前作(映画版)ではダニーは(そしてトニーも)それほど活躍できなかったが、今作のダニー、そしてアブラはかなり強い。前作がホラーにしてスリラーなら、本作はサスペンスにしてサイキック・バトル・アクションである。特にハロランさんがダニーに授ける技や、アブラがローズに仕掛ける罠は、『 NIGHT HEAD 劇場版 』のマインドコントロール・バトルよりも興奮した。クライマックスは『 貞子vs伽椰子 』的なのだが、キャラクターにキャラクターをぶつけるのではなく、キャラクターを場所=展望ホテルに呼び込むというところが良い。これがダニーが新たに身につけたシャイニングとの相似形を成しているからである。
『 アップグレード 』のようなトリッキーなカメラワークあり、ユアン・マクレガーがオビ・ワン・ケノービに見えてしまう瞬間ありと、ストーリー以外の部分でも楽しめる要素が多い。ホラー映画というよりも、超能力バトルものなので、前作の狂気が受け入れられなかったという向きにも今作はお勧めできる。
ネガティブ・サイド
せっかくよく似た役者を探してきたというのに、肝心かなめの“あのお方”が全く本人に似ていない。『 ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー 』のオールデン・エアエンライクもハリソン・フォードにはあまり似ていなかったが、今作のあの人も負けず劣らず前作のあの人に似ていない。これは致命的ではないか。『 キャプテン・マーベル 』的な方法で解決できなかったのだろうか。それでは予算オーバーになってしまったのだろうか。『 ジェミニマン 』的な買い得決方法ではなく、『 ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー 』のタルキン提督的な解決も無理だったのだろうか。
まさかキング御大が平野耕太の『 HELLSING 』を読んでいるとは思えないが、ダンの“シャイニング”がちょっとアーカード的すぎないだろうか。同時に、人外の化生どもの死に方があまりにも呆気なさすぎるのではないか。それこそ『 HELLSING 』ではないが、銃弾一つひとつに異常なこだわりを持てとは言わない。それでも、ダニーとアブラが念を込めただとか、この森には強い正の霊気があるだとか、何かあってしかるべきだった。
また、とあるシーンでアブラが携帯をポイ捨てするのだが、あの状況で「カチャ」という音はしないはずだ。実際に試したことはないし、試したくもないが、「ここは○○○という設定で撮影しているのだ」ということを感じさせてはいけない、絶対に。
【全ての謎が明らかになる!】などと煽っていたが、トニーは結局現われなかった。この謎のイマジナリー・フレンドは二作品通じて結局は謎のままである。思わせぶりにトニーの出現を示唆する台詞もありながら、この展開ではトニーが浮かばれない。
総評
一部に、うーむ・・・と眉をひそめざるを得ないシーンや演出もあるものの、エンターテインメント性は前作よりも上である。シャイニングの静謐な雰囲気と狂気の芸術性の完成度は否定できないが、本作のように娯楽度を高めることも重要である。キューブリックの路線を敢えて踏襲しなかったフラナガン監督の決断は評価されるべきである。S・キングのファンなら必見。ホラーやファンタジーのライトなファンであっても、『 シャイニング 』を鑑賞して臨めば、世界の広さや深さに触れることができるだろう。
Jovian先生のワンポイント英会話レッスン
That was then and this is now.
「それは過去で、これは今だ」の意である。アナ雪(今もって未視聴である)のTheme Songに“The past is in the past.”という歌詞がある。『 インビクタス/負けざる者たち 』でもM・フリーマン演じるネルソン・マンデラが“What is verby is verby. The past is the past.”と言っていた。過去は過去、というだけではなく、過去は過去で今は今だ、と言いたい時に上の台詞を思い浮かべてみよう。