ウォールフラワー 70点
2019年4月25日 レンタルDVD鑑賞
出演:ローガン・ラーマン エマ・ワトソン エズラ・ミラー
監督:スティーブン・チョボウスキー
日本であろうとアメリカであろうと、学校には冷酷非情な生態系が存在する。スクールカーストというやつだ。高校生という、ちょうど大人と子どもの中間にある存在は、時に非常に脆く、時に非常に危うく、時に非常に強かで逞しい。そんな時期を追体験させてくれるのが本作である。
あらすじ
チャーリー(ローガン・ラーマン)は高校入学初日に、誰とも友達になれなかった。国語教師のアンダーソン先生(ポール・ラッド)にはポテンシャルを認められるも、生徒達とはどうしても距離が生まれてしまう。しかし、ある時、フットボールの試合で上級生のパトリック(エズラ・ミラー)とその義理の妹サム(エマ・ワトソン)と知り合い、友達になる。しかし、チャーリーにはある秘密があって・・・
ポジティブ・サイド
上級生にして親友となるパトリックを演じるエズラ・ミラーの演技。これは素晴らしい。『 ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅 』、『 ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生 』では完全なるダウナー系(にしてマグマをため込むタイプ)を演じ、『 ジャスティス・リーグ 』ではフラッシュという天然アッパー系キャラを演じていた。次代のハリウッドを牽引する可能性を秘めた役者であり、アダム・ドライバー並みか、それ以上に活躍できるポテンシャルがありそうだ。本作でも優しさと包容力がありながら、自分なりの闇や負の側面をも抱えたキャラを見事に体現した。登場の瞬間から観る者に違和感を抱かせるのだが、そそっかしい人は妙な演技と勘違いしてしまうかもしれない。それは妙なのではなく、分かりにくい分かりやすさ、もしくは分かりやすい分かりにくさなのだ。特に珍しい属性ではないので、慣れた人ならすぐに見抜くだろうし、慣れていない人でもすぐに納得できるだろう。このあたりの演技のさじ加減が絶妙なのである。
エマ・ワトソンも魅せる。なぜかダメ男とばかり付き合ってしまう女性は、往々にして良い女なのだ。いや、女が器量よしだから、そばに立つ男のダメさが余計に際立つのだろうか。本作にはハーマイオニーの面影は無い。ダニエル・ラドクリフが『 ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館 』や『 ヴィクター・フランケンシュタイン 』でハリーのイメージを払しょくしたのと同じく、今作はエマ・ワトソンは非常に racy なバックグラウンドを有する slutty なキャラを具現化した。これらの英単語の意味を調べるのが億劫な人は是非本作を鑑賞しよう。
原題の The Perks of Being a Wallflower とは、壁の花でいることの利点、ぐらいの意味か。パーティーなどで部屋の中央に陣取る花形ではなく、壁に背をつけて時間をつぶす、いわゆるはみ出し者キャラのことである。ローガン・ラーマンもそうしたキャラを説得力ある形で体現した。彼にはとある秘密(というか特徴)があり、まるで『 君が君で君だ 』の尾崎豊的なところがある。というか、普通の男であればこうした特徴を大なり小なり有しているものであるし、Jovianはこのキャラクターがいたく気に入った。学校でまともに話せるのが先生だけ、という状態から同世代の友人を得て、恋の素晴らしさを知り、また恋の恐ろしさを知る(それは自分の弱さや残酷さを知ることでもある)というビルドゥングスロマンが、心の琴線に触れるのだ。詳しくは観てもらうしかないが、チャーリーの“理屈”に賛同しする、あるいは同じように感じたことがあると思い当る男性連中は多いはずだ。
そうそう、国語教師のポール・ラッドも良い味を出していた。千万言を費やすよりも、自分の愛読書を読んでもらう方が、思いやりや尊敬、信頼の気持ちをより強く表すことができる。そんな理想的な教師像を彼の姿に見た。俺もこんな風になりたいなと思えた。
ネガティブ・サイド
チャーリーに仕込まれたトリックというか、とあるトラウマの秘密が、ややありきたりである。極端な話、漫画『 ベルセルク 』のガッツの抱えるトラウマと同質のものの方がよりインパクトがあり、なおかつパトリックという兄貴キャラとの整合性というか、相性の面でもより良かったのではないかと思う。
また、チャーリーの家族との触れあい、交流の場面がもっと欲しかった。チャーリーという主人公が、どのように変わり、また変われないのかを最もよく知るのは、やはり家族だからだ。
もう一つ、チャーリーの恋の始まり方の説得力が弱かった。この恋の終わり方がハチャメチャなので、始まりもある意味ではもっとぶっ飛んだ、若気の無分別で良かった。ここでの無分別というのは性欲と恋心を混同するというような意味ではなく、周囲に遅れているのではないかという焦燥感や異性への純粋な好奇心、そうしたものから偶発的に始まってしまった関係だったほうが、チャーリーというキャラによりマッチしていたように思う。
総評
青春ものとして佳作である。日本で同じテーマを描こうとしても、様々な意味で難しいだろう。しかし、こうしたはみ出し者たちの心温まる交流風景や衝突、断絶を経ての成長物語は普遍的なテーマであるはずで、誰が観ても何がしかのメッセージを受け取ることができるし、共感を呼び起こされるはずである。高校生以上なら充分に理解ができるはずだし、青春のほろ苦さを予習もしくは追体験することができる。お勧めの一作である。