きっと、それは愛じゃない 75点
2023年12月29日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:リリー・ジェームズ シャザト・ラティフ
監督:シェカール・カプール
原題がティナ・ターナーの楽曲 “What’s Love Got To Do With It?” と同じ。主演が『 シンデレラ 』のリリー・ジェームズ、監督は『 エリザベス 』のシェカール・カプールということでチケット購入。
あらすじ
ドキュメンタリー作家のゾーイ(リリー・ジェームズ)は隣家の幼馴染カズ(シャザト・ラティフ)が見合い結婚すると聞き、その過程を映像に収めようと企画する。カズは両親や結婚相談所の仲介を経て、カズはトントン拍子に婚約者を見つけるが・・・
ポジティブ・サイド
これまたJovianの好物である「映画を作る映画」である。話のポイントはそこではないが、とにかく映像作品を作る過程を映像作品にするのは、単純に見ていて面白い。作り手の哲学や作劇に対する姿勢がそこによく表されると感じる。本作で言えば、白人の若い女性がドキュメンタリーを撮るというのは、老齢の有色人種の男性が娯楽作品を撮ることと対比される。宮崎駿がいつも少女をテーマにするようなもの。
パキスタンにルーツを持つイスラム教徒でありながら、生まれも育ちもイングランドで職業は腫瘍内科医という一種のエリートのカズが、両親の勧めに従ってパキスタンから嫁を取るというのはなんだか保守的に感じられるが、これは非常にリアルだと感じた。異人は異人であろうとすると喝破したのは赤坂憲雄だったっけか。日本でも(だいぶ薄まっているが)韓国人や中国人がコミュニティを作って独自の文化や伝統を保持しようとするのも同じ理屈。一方で、生粋のイングランド人のゾーイが自由恋愛をしたところ、引っかかるのはクズ男ばかりという対比も面白い。
スカイプで出会って、色々と話す中で婚約がまとまっていくが、いざ現地で花嫁とご対面となったときのギャップも現代的。異邦人として生きる者たちが伝統や文化の維持に尽力している一方で、本国の若者は西洋的な文化に触れまくったパリピになっているのは皮肉ではあるが、やっぱりリアル。普及したかに思えたテレワークが定着しなかったのは、こういうことが往々にして起こるからなのだろうなと感じた。実際、大学などで教えていても、オンライン授業よりも対面授業の方がはるかにやりやすい。
自由恋愛vsお見合い結婚、人種の違い、宗教の違いなどの描写を通じて、最終的には家族の再生の話につながっていく。家族には二通りある。自分がそこに生まれ落ちてくる家族。これは自分で選べない。もう一つは、自分で作り出す家族。これは自分で選ぶことができる。別に他人(親を含む)に選んでもらっても構わないわけだが、それも含めて家族は所与でも結婚は自分の選択だというのが本作の結論か。説教臭くならず、現代的なテーマをふんだんに盛り込んでいて、非常に見ごたえのある物語だった。
ネガティブ・サイド
ゾーイとカズの幼少期のシーンが欲しかった。二人が子供のころから仲良しで、しかし47番地と49番地には子どもには見えない壁があった、あるいはゾーイの目には見えない溝があったことを仄めかすシーンがあれば、終盤に生きたと思われる。
獣医のジェームズとゾーイの関係の終わらせ方が強引だった。ゾーイが子どもたちに語って聞かせる変調のおとぎ話をたまたま耳にするというのは都合が良すぎる。ゾーイの作品に映し出されるカズの姿から何かを感じ取って身を引く、というプロットを模索してほしかった。
総評
ティナ・ターナーの What’s Love Got To Do With It? の It は男と女が惹かれあうこと自体を指しているが、本作の It は arranged marriage または assisted marriage を指すのかな。キャリア志向の女性が本作を鑑賞するとビミョーに感じてしまう恐れはあるが、結婚なんてものは突きつければ赤の他人と一緒になること。つまりは最もベーシックな意味での異文化共生なのだ。それが本作のテーマなのだろう。
Jovian先生のワンポイント英会話レッスン
good enough
文脈にもよるが「充分に良い」という意味と「まあ、こんなもんだろ」という意味がある。劇中でゾーイがとある男性を評して good enough を使うが、結婚相手に perfect を求めるのはいかがなものか。実際は good enough で満足すべきなのではと思う。
次に劇場鑑賞したい映画
『 雑魚どもよ、大志を抱け! 』
『 ゴーストワールド 』
『 ブルーバック あの海を見ていた 』