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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

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タグ: 監督:杉井ギサブロー

『 銀河鉄道の夜 』 -ファンタジーの傑作-

Posted on 2022年4月30日 by cool-jupiter

銀河鉄道の夜 85点
2022年4月26日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:田中真弓 坂本千夏
監督:杉井ギサブロー

『 銀河鉄道999 』シリーズで野沢雅子の声に久々に触れたが、やっぱりイメージとしては孫悟空。ならばクリリン=田中真弓が主人公であり、『 銀河鉄道999 』の元ネタでもある本作も観てみたいと感じ、近所のTSUTAYAでレンタル。

 

あらすじ

病弱な母と共に北の海の漁から帰らない父を待つジョバンニ(田中真弓)は、星祭りの夜も同級生たちになじめず、町はずれで空を眺めていた。すると空から汽車が現れた。乗りこむと、そこには友人のカムパネルラ(坂本千夏)がいた。二人は不思議な銀河の旅に出るが・・・

 

ポジティブ・サイド

宮沢賢治といえば子ども向け作品のイメージが強かったが、それは非常に表面的な見方だった。何年か前の『 コズミックフロント☆NEXT‏ 』で『 銀河鉄道の夜 』は賢治の時代の最先端の天文学の知識が反映されていたと知って大いに驚いたことを思い出した。

 

『 風の谷のナウシカ 』は小学校の体育館で観たが、本作も確か小3か小4の頃にやはり体育館で観た覚えがある。その後、高校2年生の頃に講談社のバイリンガル文庫の『 銀河鉄道の夜 』を岡山の紀伊国屋で買って読んだ。そうした懐かしい記憶が蘇ってきた。

 

本作は「文部省特選」と銘打たれているが、子ども向けの作りとは言い難い。冒頭から木の葉落としのように学校に迫っていくカメラワークや、薄暗い教室、クラスメイトに影口をたたかれる少年、活版印刷所で大人に混じって働くも、その大人たちにも揶揄される。父は家に帰って来ず、母親も病身。ジョバンニは幸せとは言い難い。しかし、それこそが賢治が伝えたかったことなのだろう。

 

銀河鉄道に乗ったジョバンニがカムパネルラと共に訪れ、目にする光景はどれも美しく、そして悲劇的である。120万年の時を駆けた証のくるみも、あっという間にボロボロになってしまう。せっかく知り合えた大人や同年代の他者を疎ましく思ってしまう。ジョバンニは自分の小さな幸せを奪われる、あるいは壊されると感じてしまうが、幸せの形とはそのようなものではない。幸せは与えられるものではなく、与えるものである。自己犠牲の先に幸せがある。そう受け取るのは簡単だが、それだけがメッセージではないようにも思う。カール・ブッセの『 山のあなた 』のように、幸せとは常にそれを追い求めていく対象であって、手に入れる対象ではないのだとも言える。ハッピーエンド=父親が帰ってくるかどうかはっきりしないという本作の結末そのものが、それを示唆しているように感じる。

 

キャラクターを猫にしてしまうことで物語の幻想度が増している。これはこれでありだと思う。また絵そのものの美しさも際立っている。ジョバンニたちの住む町の欧風かつオリエンタルなデザインも非常に味わい深い。2010年代後半以降のアニメは光の力が強すぎたり、あるいはキャラが不気味にゆらゆらと動くところが個人的にはしんどい。この時代のアニメーションの方がオッサンにはありがたい。細野晴臣の珠玉のBGMも本作を傑作タラ占めている。ジョバンニの心象風景をそのまま音楽にのせて、観る側にダイレクトに伝えてくる。何でもかんでもナレーションや説明的なセリフにしてしまう今のクリエイターたちに、もう一度基本に立ち返ってほしいと、本作を鑑賞してあらためて感じた。

 

観終わった直後に repeat viewing したが、数々の伏線の妙に驚かされた。特に最後のナレーションで「命は青い照明の明滅」だと語られるが、それがオープニングのクレジット・シーンに反映されていることに衝撃を受けた。他にもジョバンニがカムパネルラ家でアルコールで走る汽車の模型を見たという話は、『 オズの魔法使 』を思い起こさせた。ドロシーはオズへ行ったのか、それとも竜巻の衝撃で頭を打って、一時的な夢を見たのか。それと同じで、ジョバンニは本当に銀河鉄道に乗ったのか、それとも丘の上で一時的にまどろんだだけなのか。いかようにも解釈できるところが本作の素晴らしいところである。

 

ネガティブ・サイド

タイタニック号沈没のシーンは、東日本大震災と津波の被害をリアルタイムで経験した人にとっては相当に苦しい時間になりそう。もちろん賢治がそんなことを予見できるはずもないのだが。

 

無線技士の受け取る謎のメッセージをもう少しだけ鮮明にしてくれれば良かった。ここを海の事故を暗示するものではなく、北の海の漁船が帰ってくるという暗示のようなものにすれば、全体的に重苦しい雰囲気が少しは和らいだものになったと思う。

 

総評

文字通り時を超えた名作。少年の友情物語として鑑賞することもできるし、壮大なファンタジーとしてもアドベンチャーとしても解釈できる。正義・友情・勝利という、少年ジャンプ的な世界観や、2000年代以降のだらだらとした日常系とも一線を画している。親としても自分の子どもに安心して見せられる作品である。もちろん、大人も一緒に鑑賞して、子どもたちが抱くであろう様々な疑問に自分なりに答えてやってほしい。自分でも今度甥っ子たちに買ってやろう。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

speak ill of ~

~の悪口を言う、の意。ザネリのような子どもはいつの時代もいる。それはしょうがない。Ill weeds grow fast. 憎まれっ子世に憚る、である。ただ、ザネリたちのジョバンニへの態度は make fun of ~ = ~をからかう、笑いものにする、馬鹿にする、がより適切な訳かとも感じる。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 1980年代, A Rank, アニメ, ファンタジー, 坂本千夏, 日本, 田中真弓, 監督:杉井ギサブロー, 配給会社:日本ヘラルド映画Leave a Comment on 『 銀河鉄道の夜 』 -ファンタジーの傑作-

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