Skip to content

英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

  • Contact
  • Privacy Policy
  • 自己紹介 / About me

タグ: 光石研

『 わたしは光をにぎっている 』 -東京の一隅に居場所を見出す少女の物語-

Posted on 2019年11月24日2020年4月20日 by cool-jupiter

わたしは光をにぎっている 65点
2019年11月23日 シネ・リーブル梅田にて鑑賞
出演:松本穂香 渡辺大知 光石研
監督:中川龍太郎

f:id:Jovian-Cinephile1002:20191124020319j:plain
 

高校生ぐらいの頃は、本屋に行っては背表紙のタイトルだけ見てミステリやサスペンス小説を買っては読んでいた。本作は久々に、タイトルだけで鑑賞を決めた作品である。あらすじやキャストなど、事前の情報は極力仕入れずに鑑賞した。その甲斐もあってか、思いのほか楽しむことができた。

 

あらすじ

両親を早くに亡くした宮川澪(松本穂香)は、民宿を営む祖母に育てられた。だが祖母の入院により、その民宿も閉業。父の古い友人である三沢京介(光石研)の元に身を寄せる。スーパーでバイトを始めた澪だったが、長続きしなかった。澪はやがて京介の営む銭湯・伸光湯を手伝うようになる。その界隈では映像作家の緒方銀次(渡辺大知)らとの出会いもあり、澪は少しずつ世界との関わりを学んでいく・・・

f:id:Jovian-Cinephile1002:20191124020342j:plain


 

ポジティブ・サイド

現代日本の閉塞感、それにより生じる息苦しさ、もっと言えば生き辛さを克服していく過程の切り取った作品である。舞台が東京の下町の銭湯に設定されている点がよい。Jovianの出身地の兵庫県尼崎市は、昔に比べて数は相当に減ったものの、それでも昔ながらの銭湯が結構残っている。そこには独自の人間関係や生活のリズムといった、ユニークな生態系が存在している。Jovianは月に1~2回ぐらい銭湯に行くので、本作の世界にスッと入って行くことができた。

 

無口な少女である澪が東京の洗礼を浴びるシーンは少し痛々しい。東京では、人間関係が役割によって規定されている。店員は客の声を聞くものである。ただ、無防備に近い状態の人間がサンドバッグにされてよい道理はないし、正社員だからといってアルバイトと話す時に目を合わせなくてよいということもない。とにかく上京してすぐの澪は居場所のない無力な存在なのである。これによって観客は澪を応援したくなってしまう。これで澪を「どんくさい奴だな」と思ってしまう人は『 翔んで埼玉 』を観て、東京の富や権力が何によってもたらされ、維持されているのかを、再確認した方がよい。

 

伸光湯に居場所を見出していく澪と、その澪に仕事の在り方を見せる京介の疑似的な親子関係は清々しい。自身も口数の少ない京介である。浴場の掃除の仕方をあれこれと口で教えたりはしない。まず自分がやってみる。それを澪にやらせていく。頭を下げるべきところでは頭を下げ、しかし、それによって澪を叱責したりはしない。炉にもくもくと木を放り込んでいく姿は一つのプロフェッショナリズムの極まった形だろう。『 羊と鋼の森 』でもやや偏屈な調律師を演じた光石研は、いぶし銀の代名詞である。

 

渡辺大知のキャラも良い味を出している。伸光湯は平成どころか昭和の風情を残した貴重な銭湯である。その界隈も古き良き時代の名残を我々に伝えてくれるものである。そうしたものを映像という形で残そうという試みは、中川龍太郎監督自身の意識の表れなのだろう。

 

監督のこだわりはカメラワークにも表れている。普通の映画と比べて、ロング・ショットが多用されている。一つには、澪の孤独を視覚的に分かりやすく示すためであり、一つには、澪のパーソナル・スペースに徐々に他人が入ってこれるようになってきたことを示すためである。番台をしている澪を窓の外から映すシーンでは、東京の片隅で確かにこのような形で存在し、生活している人間がいるのだということを印象付けた。カメラワークも冴える作品である。

 

ネガティブ・サイド

澪の入浴シーンまでロング・ショットで撮影するとは、中川監督に喝!・・・というのは、もちろん冗談である。

 

冗談はさておき、スーパー銭湯でも昔ながらの銭湯でも、「脱衣所でスマホ・携帯を使用しないでください」という注意書きが貼られる時代である。同性の裸を見たいという男性も存在するし、女性が盗撮した動画を男性側に提供することもありうるのである。嫌な時代である。だからこそ、脱衣所や浴場そのものも映し出すことにトライすべきではなかったか。伸光湯は澪の居場所となるだけではなく、地域の人々の憩いの場であったり、認知症が進んだ老人の行き先であったりするわけである。そうした下町人情を映し出す必要もあったと思う。『 テルマエ・ロマエ 』という優れた先行作品もある。『 サウナのあるところ 』というモザイクすらかけなかった作品もあるのである。

 

エンディングは味わい深い。ただ、『 スリー・ビルボード 』のように、その一瞬先を見たいというこちらの欲求を満たしてくれるものではなかった。セルフ・ネグレクト気味の京介の目に映る成長した澪の姿。例えばそれは笑顔であったり、快活な声であったり、あるいはテキパキとした仕事ぶりであったり、何でもよいのだ。「そこは観る人の想像力に委ねます」という中川監督の意図も分かる。だが、「過去の名言を語る男に未来はない」ように、我々はその先を見たいのである。

 

総評

格差が定着した感のある日本である。しかし、日々を精いっぱい生きることが無意味なわけでは決してない。澪や京介の不器用な生き方は、むしろ好ましくすら映る。銭湯要素がやや少なめなのが残念だが、社会的なメッセージと人間ドラマを両立させた邦画の佳作である。スルーしてきた『 湯を沸かすほどの熱い愛 』を観てみたいという気分になった。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Use your imagination.

 

京介の「想像力を働かせろよ」という台詞の私訳である。~を働かせる=let ~ workなどと公式にあてはめてはいけない。英語を使うコツは、簡単な動詞を駆使することである。「常識で考えろ」というのも、”Use common sense.”と言うのだと覚えておこう。

 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村 

Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, C Rank, ヒューマンドラマ, 光石研, 日本, 松本穂香, 渡辺大知, 監督:中川龍太郎, 配給会社:ファントム・フィルムLeave a Comment on 『 わたしは光をにぎっている 』 -東京の一隅に居場所を見出す少女の物語-

最近の投稿

  • 『 28日後… 』 -復習再鑑賞-
  • 『 異端者の家 』 -異色の宗教問答スリラー-
  • 『 うぉっしゅ 』 -認知症との向き合い方-
  • 『 RRR 』 -劇場再鑑賞-
  • 『 RRR:ビハインド&ビヨンド 』 -すべてはビジョンを持てるかどうか-

最近のコメント

  • 『 i 』 -この世界にアイは存在するのか- に 岡潔数学体験館見守りタイ(ヒフミヨ巡礼道) より
  • 『 貞子 』 -2019年クソ映画オブ・ザ・イヤーの対抗馬- に cool-jupiter より
  • 『 貞子 』 -2019年クソ映画オブ・ザ・イヤーの対抗馬- に 匿名 より
  • 『 キングダム2 遥かなる大地へ 』 -もう少しストーリーに一貫性を- に cool-jupiter より
  • 『 キングダム2 遥かなる大地へ 』 -もう少しストーリーに一貫性を- に イワイリツコ より

アーカイブ

  • 2025年5月
  • 2025年4月
  • 2025年3月
  • 2025年2月
  • 2025年1月
  • 2024年12月
  • 2024年11月
  • 2024年10月
  • 2024年9月
  • 2024年8月
  • 2024年7月
  • 2024年6月
  • 2024年5月
  • 2024年4月
  • 2024年3月
  • 2024年2月
  • 2024年1月
  • 2023年12月
  • 2023年11月
  • 2023年10月
  • 2023年9月
  • 2023年8月
  • 2023年7月
  • 2023年6月
  • 2023年5月
  • 2023年4月
  • 2023年3月
  • 2023年2月
  • 2023年1月
  • 2022年12月
  • 2022年11月
  • 2022年10月
  • 2022年9月
  • 2022年8月
  • 2022年7月
  • 2022年6月
  • 2022年5月
  • 2022年4月
  • 2022年3月
  • 2022年2月
  • 2022年1月
  • 2021年12月
  • 2021年11月
  • 2021年10月
  • 2021年9月
  • 2021年8月
  • 2021年7月
  • 2021年6月
  • 2021年5月
  • 2021年4月
  • 2021年3月
  • 2021年2月
  • 2021年1月
  • 2020年12月
  • 2020年11月
  • 2020年10月
  • 2020年9月
  • 2020年8月
  • 2020年7月
  • 2020年6月
  • 2020年5月
  • 2020年4月
  • 2020年3月
  • 2020年2月
  • 2020年1月
  • 2019年12月
  • 2019年11月
  • 2019年10月
  • 2019年9月
  • 2019年8月
  • 2019年7月
  • 2019年6月
  • 2019年5月
  • 2019年4月
  • 2019年3月
  • 2019年2月
  • 2019年1月
  • 2018年12月
  • 2018年11月
  • 2018年10月
  • 2018年9月
  • 2018年8月
  • 2018年7月
  • 2018年6月
  • 2018年5月

カテゴリー

  • テレビ
  • 国内
  • 国内
  • 映画
  • 書籍
  • 未分類
  • 海外
  • 英語

メタ情報

  • ログイン
  • 投稿フィード
  • コメントフィード
  • WordPress.org
Powered by Headline WordPress Theme