樹海村 20点
2021年1月30日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:山田杏奈 山口まゆ
監督:清水崇
売り出し中の山田杏奈の主演作品。Jovianはホラーはまあまあ好きなので、この期に及んでもジャパネスク・ホラーに期待を抱いている。人生と最もたくさん本を読んでいた時期の90年代からゼロ年代に読んだホラー小説の数々に感銘を受けたからだ。日本には良いホラー映画を生み出す土壌があると、今でも信じたいのだ。だが、しかし・・・
あらすじ
引きこもりの響(山田杏奈)はYouTuberが富士の樹海を探索する配信動画を観ていた。しかし、そのYouTuberの身に異変が起きて動画は終了してしまう。その後、姉の引っ越し先で偶然に見つけた箱により、響の家族や友人たちは恐るべき怪異に見舞われることになり・・・
ポジティブ・サイド
量産型の低級ホラー = 美少女がキャーキャー叫ぶという図式が本作にはない。それは主演の山田杏奈の存在感のおかげだろう。『 屍人荘の殺人 』でも感じたことだが、この女優は感情を抑えた演技をした時にこそ光る。また、見方によってはかなりエロチックなシーンが挿入されており、清水監督の女優・山田杏奈への惚れ込み具合が伺える。
いくつかのショットが印象的だった。あるキャラクターがとある事件後に見せる能面のような笑顔、そしてドアを閉めた先のすりガラス越しに見せるモザイク模様の絶対的な拒絶の表情はホラー映画の絵として完璧だった。
本編終了後にいきなり帰っていった人も数人見たが、数年後の世界を描いたスキットがある。ま、別に見たからといって何がどうこうなる内容ではないのだけれど。
ネガティブ・サイド
出だしが『 犬鳴村 』とそっくり同じである。アホなYouTuberがたくさん存在することは否定できない現実であるが、『 貞子 』でも使われたネタで、そろそろ新味を出す必要がある。まさか恐怖の村シリーズ第3弾作品の冒頭も、こんな作りになっているとは思いたくないが・・・
そのYouTuberが分け入っていく樹海の森も既視感ありありである。森の中で突如現れる石や木の枝を組み合わせた不思議なオブジェは『 ブレア・ウィッチ・プロジェクト 』のそれとそっくり。誰も住んでいるはずのない樹海の中に人間の痕跡が・・・と思わせたいのだろうが、もっと上手いというか、日本的なオブジェなどは構想できなかったか。
樹海村という村落をタイトルに持ちながら、その村の存在が本編が怪死・・・じゃなくて開始されてから相当に経たないとフィーチャーされない。樹海という場の魔力がコンセプトなのか、樹海に村落を形成するに至った人間たちの恐ろしさを描くのか、それとも主人の響の家族にまつわる物語にしたいのか。そのあたりの軸がブレブレである。某総理大臣の政策方針のブレ具合と、これはいい勝負である。
肝心な点として、何でもって観客を怖がらせたいのかがハッキリしない。これが本作(に限らず近年の邦画ホラーの多く)の弱点である。響の妄想(その源が彼女個人なのか、それとも家系にあるのかは本編終了後のエンドロール中のスキットで明らかになる)、統合失調症の症状によるものなのか、それとも樹海村の呪いが厳然たる事実として存在するのか。そのあたりの虚実をはっきりさせず、「え?これは一体どういうこと?」という観る側の疑問を常に刺激することが求められていたはずなのだ。謎が恐怖を呼び、恐怖が次の謎を呼ぶという基本がなっていない。本作は、妄想も呪い(呪いのコトリバコというオブジェは本当に必要か?)も、どちらも中途半端に描いたのが最大の失敗である。
最終盤の展開もシラケる。これもまんま『 シャイニング 』や『 ドクター・スリープ 』の輝きのパクリではないのか。いや、パクリの域にも至っていないか。
訳の分からん村人のゾンビもどきに今どき恐怖を感じられるか?國村準を使うなら『 哭声 コクソン 』並みに、スーパーナチュラルなホラー世界と人間の業の世界を行き来する世界観を構築してほしかった。これでは凡百以下のホラー映画である。
総評
『 事故物件 怖い間取り 』で「我々がかつて敬服した中田秀夫監督はもう死んだ。そう思うしかない。冥福を祈る」と書かせてもらったが、全く同じことが清水崇監督にも当てはまる。『 富江 』や『 呪怨 』の清水崇は死んだ。冥福を祈る。この恐怖の村シリーズって、まだ続けるの?こんなプロジェクトに血道を上げても、時間とカネとエネルギーの無駄でしかないと思うが・・・。1990年代から2000年代にかけて豊かに花開いたホラー・ジャパネスクは2010年代から2020年にかけて急速に劣化した、と後の世に評価されるだけだと思われる。いっそのこと『 八つ墓村 』とか現代風にリメイクしたら?
Jovian先生のワンポイント英会話レッスン
exorcize
お祓いする、の意。ホラー映画の金字塔『 エクソシスト 』でもお馴染み。はっきり言ってクリシェである。効かないと分かっているが、それでもやらないといけない。邦画の中でお祓いが効果的だったとされる作品を思い返そうとしたら、『 陰陽師 』あたまりまで遡る必要があるだろうか。ホラーちゃうけど。