ズーム/見えない参加者 30点
2021年1月16日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:ヘイリー・ビショップ
監督:ロブ・サベッジ
Jovianは2017年の秋ごろから当時の仕事およびプライベートでZoomを使っていた。有料版を使い始めたのは2020年からだが、Zoomにはまあまあ詳しい方だと自負している。劇場予告を観て「遂に出るべくして出できたな」と感じた。が、甘かった。これは英国版『 真・鮫島事件 』であった。
あらすじ
コロナ禍でロックダウン中の英国で、ヘイリー(ヘイリー・ビショップ)は友人たちとZoom降霊会を開催する。だが、参加者のジェマが実在しない死者の話をしてしまったことで、本来呼び出されるべきではない霊が現れてしまい、ヘイリーたちは数々の怪異に見舞われてしまい・・・
ポジティブ・サイド
無名に近い俳優たちだらけだが、そのおかげでリアリティが生まれている。『 ブレア・ウィッチ・プロジェクト 』でも顕著だったが、こうしたアイデア一発勝負のホラーには有名キャストはノイズとなる。どうしても作り物感が生まれてしまうからだ。彼ら彼女らの話し振りも、なかなかにダーティーで、それが逆に親密さを感じさせる。実際にZoom飲み会をやっている面々というのは、往々にしてこういう関係性なのだろうと思わせる。ヘイリーとジェマの迫真の演技は見ものである。
スマホの顔認証や、コンピュータ音声に特有のサーっというホワイトノイズやクリック音もなかなか効果的。下手に大きな効果音を使うよりも、静かな耳慣れた音の方が恐怖感を演出しやすい。これはZoomに慣れた人ほど感じやすいはずだ。
科学的な知識の普及と浸透により、超自然的な現象は一時期後退していった。それでも携帯の普及と共に『 着信アリ 』が出てきたように、Zoomに代表されるウェブ会議システムのような新しいテクノロジーが生まれれば、やはりホラー映画がそこから生まれる。凡作ではあるが、暇つぶしにはなる。
ネガティブ・サイド
全編がZoom上で行われること以外は、凡百のホラー映画と何一つ変わらない。「ここで大きなが音がするぞ」とか「ここでこけおどしのオブジェが出てくるぞ」という予感がことごとく的中する。まるでホラー映画の作り方の教科書を読んだ高校生あたりが作ったかのようにすら感じられる。実際に、細部にこだわらなければ、類似の作品は高校生に手に入るリソースだけでも十分に制作可能だろう。低予算であるならば、それこそアイデアにこだわるべきで、ホラーとして新しい何かを提供しようという製作者側の気概は一切感じ取ることができなかった。
いわゆるZoomらしさが一切なかったのは残念で仕方がない。Zoomが他のウェブ会議システムに比べて優っている(優っていた)点は、主に
1.お手軽さ
2.画面共有
3・ブレイクアウトルーム
だった。もっとこれらの特徴を生かしたホラーを構想すべきだろう。たとえばZoomはその参加の「お手軽さ」ゆえにZoom爆撃と呼ばれる悪質な乱入事件が世界で相次いで行われていた。そうした愉快犯(高校生男女数人がいいだろう)が大学のオンライン授業に爆撃を仕掛けて楽しんでいたところ、ランダムに入力したミーティング・パスコードによって入ってはいけない領域に迷い込んでしまい・・・というようなストーリーである。
「画面共有」や、それに類するファイル交換にフィーチャーするなら、例えば画面共有をすると参加者を映すウィンドウが縮小する。そこで共有を解除してギャラリービューに戻してみると、参加者が増えている。それも他人が乱入してきたのではなく、参加者Aと参加者A’が生まれて、自分同士で通話できてしまう。他の参加者は呆然とそれを眺めて・・・というようなプロットも割と簡単に思いつく。
ブレイクアウトルームでも恐怖は生み出せる。Jovianは大学の英語の非常勤講師を自身で行っていたり、あるいは派遣元企業の担当者としてそうした講師の授業をオブザーブ(ビデオをマイクもOFF)してフィードバックすることもある。某大学のオンライン授業をオブザーブした際に、ブレイクアウトルームに割り振られたので、学生のペアワークの様子を見学させてもらおうと思ったが、スクリーンネームを適当な6桁の数字にしていたせいで「え、誰これ?なんで6桁なん?学生じゃない?やばいやばい、怖い怖い、誰?」と学生に言われてしまった苦い経験がある。なので舞台を大学にして、オンライン授業でブレイクアウトルームに参加者を割り振るごとに、一人また一人で学生がZoom上からも、そして自宅からも消えていく。あるいはブレイクアウトルームの中だけで起きる怪奇現象があり、ホストも他の参加者もそのことになかなか気づいてくれず・・・といった物語も作ろうと思えば作れるのではないか。
Zoomならではの恐怖要素をもっともっと追求した作品は、今後インディーズで、もしくは高校生や大学生の映研やら、サンデー・アート・スクールのプロジェクトなどから生まれてくると思われるが、それに先立って本作はZoomの魅力と魔力を世に発信すべきだった。
そうそう、Zoomのギャラリー・ビューでは喋っている人の表示枠が黄色の太線で囲われるが、本作にはそれが無かった。監督および編集者の完全なるミスだろう。
最後のメイキング映像は完全なる蛇足。観ずに劇場を後にしてもなんの問題もない。
総評
クソホラー映画である。『 search サーチ 』のようなクオリティを期待するとがっかりさせられること必定である。68分(本編後のボーナス映像を除けば、おそらく60分)という短さで、なおかつ1000円でチケットを購入できるので、暇つぶしと割り切れるホラー愛好家のみにお勧めしておく。
Jovian先生のワンポイント英会話レッスン
be on lockdown
ロックダウン中である、の意。London is on lockdown.のように使う。どこかのアホな知事が不用意に発話したことから、意味や解釈に誤りが生じた語。決して「都市封鎖」という意味ではない。字義どおりに解釈すれば、都市封鎖=都市へ入ること、そしてその都市から出ることを禁じる措置であって、都市内での人々の移動は自由である。「国境を封鎖する」と聞けば、入国や出国が禁じられるが、国内の移動が制限されるとは誰も受け取らないだろう。Lockdown = 外出制限または移動制限と訳すべきと思う。