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英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー

サラリーマン英語講師が辛口・甘口、両方でレビューしていきます

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タグ: 監督:山崎貴

『 SPACE BATTLESHIP ヤマト 』 -邦画の欠点が凝縮されている-

Posted on 2020年7月18日 by cool-jupiter

SPACE BATTLESHIP ヤマト 15点
2020年7月16日 レンタルDVDにて鑑賞
出演:木村拓哉 黒木メイサ
監督:山崎貴

f:id:Jovian-Cinephile1002:20200718133258j:plain
 

『 アルキメデスの大戦 』を観ても分かる通り、この国はどんづまりになると起死回生の大艦巨砲主義を選ぶ。緊急事態宣言然り、秋に囁かれる解散総選挙然り。GO TOキャンペーンなど狂気の沙汰、亡国政策だろう。劇場公開当時、華麗にスルーした本作だが、今という時に観返して何か発見があるかどうか。なかった。ただただ邦画の限界、弱点、欠点を見せつけられただけだった。

 

あらすじ

ガミラスの遊星爆弾攻撃により放射能汚染された地球。人類は地下に潜り、なんとか生き延びていた。そんな時、遠い宇宙から謎のメッセージが届く。そこには宇宙のとある座標と波動エンジンの設計図が込められていた。人類は戦艦ヤマトを駆って、宇宙へと飛び立っていく・・・

 

ポジティブ・サイド

ヤマトのワープの使い方に頷けるものがあった。これは確かに最高のヒット・アンド・アウェイである。ワープの演出がアニメ版の瞬間移動的なものとは異なっているが、これは確かに瞬間移動だと、ここだけは得心した。

 

緒形直人演じる島大介だけは良かった。

 

後はBGM。『 スーパーマン リターンズ 』でも John Williams のあの音楽が流れる瞬間は鳥肌が立ったようなもの。

 

ネガティブ・サイド

どこからツッコミを入れていいのかどうか分からないが、とにかく『 宇宙戦艦ヤマト 』の精神を受け継いでいないし、キャラクターの再現度も極めて低い。さらに同時代に送るメッセージもない。

 

古代進が「あのさぁ」とか言って、人に話しかけるか?森雪が平手打ちならまだしも、グーで人を殴るか?なぜ西田敏行が佐渡医師ではなく機関長なのだ?山崎努は、第二次大戦映画ならまだしも、沖田艦長のイメージでもないし、本人も似せようとしていない。また監督もそのような演出をしていない。何がしたいのだ?

 

言葉の使い方もいろいろとおかしい。「ガミラス機を捕獲しろ」ではなく「ガミラス機を鹵獲しろ」ではないのか?古代が「第三艦橋に取り残された者たちを見殺しにしました」と沖田艦長にサラッと大嘘を報告するのもどうなのか。実際は見殺しではなく、自分から切り捨てたというのに。妙なところでリアリズムが欠如している。というか、虚偽が混じっている。

 

行動も妙だ。直前のシーンでぜえぜえ言っているキャラが、次の瞬間に呼吸が落ち着いている。シーンとシーンがつながっていない。敬礼も沖田だけ脇を開く角度を極端に小さくする海軍式。その他のキャラは陸軍もしくは空軍式。混成軍だと言ってしまえばそれまでだが、宇宙戦艦という狭い空間内なら海軍式に統一すべきだ。あるいは人類最後の希望は寄せ集めであるというを見せる描写が必要だ。パイロット連中が最終出撃前に「ウェーイ!!!」というハイテンションになっているのは何故なのか。凡作だった『 空母いぶき 』でもパイロット連中は冷静さを保っていた。というかパイロット然り、キャビンアテンダント然り。空を飛ぶ連中、あるいは海に潜る連中に何よりも求められる資質は、冷静さを保てることだ。こんな連中がよく生き残れたな。またキムタク・・・じゃなかった、古代進のクライマックスでの「波動砲は撃てるか?」の問いにもズッコケである。軸線上に地球があるのに波動砲を撃とうという狂った発想は、一体全体どこから湧いてくるのか。

 

戦闘シーンも『 スター・ウォーズ 』と『 インディペンデンス・デイ 』を自分流にやってみたかったんだよね~、という山崎監督のエゴの声が聞こえてきそうな陳腐さ。CGやYFXの質に文句をつけているのではない。オリジナリティの欠如を嘆いている。あるいは、低いハードルを越えて満足している姿を憂いているのである。

 

細かいところではあるが、地球から42万キロメートルにいるシーンで、地球が異様に小さく映るのは何故か。月よりもほんのちょっと遠いだけだろう。編集時点で誰も気付かなかったのか。

 

ガミラスを個にして全、アルファにしてオメガな存在に描く必要はあったのか?『 風の谷のナウシカ 』や聖書を堂々とパクって開き直れる姿勢は称賛、ではなく硝酸に値する。

 

総評

ネガティブな評だけで5000~6000字は書けそうだが、それはあまりにも生産性が低い行為である。総評を書くのも面倒だ。何故ここまで原作をレイプできるのか。そして時代に向き合わないのか。何も原発事故やコロナ禍を予見しろなどと言っていない。だが、この中身スッカスカの実写版を観て、何を感じ取れと言うのか、誰か教えてほしい。キムタクが古代で森雪が黒木メイサ?役者を責めているのではない(演技面で褒められるものはなかったが)。そうしたキャスティングをしてしまう業界の構造や企画立案のプロセスにこそ邦画制作の病巣がある。そのことが再確認できただけの作品である。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

Sorry, no lessons. I want to forget about this awfully bad film ASAP.

 

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Posted in 映画, 海外Tagged 2010年代, F Rank, SF, 日本, 木村拓哉, 監督:山崎貴, 配給会社:東宝, 黒木メイサLeave a Comment on 『 SPACE BATTLESHIP ヤマト 』 -邦画の欠点が凝縮されている-

『 ルパン三世 THE FIRST 』 -Lupin is back in action!-

Posted on 2019年12月11日2020年4月20日 by cool-jupiter

ルパン三世 THE FIRST 65点
2019年12月8日 東宝シネマズなんばMX4Dにて鑑賞
出演:栗田貫一 小林清志 浪川大輔 沢城みゆき 山寺宏一 吉田鋼太郎 藤原竜也 広瀬すず
監督:山崎貴

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フランスのアルセーヌ・ルパンに、日本の和のテイストと鼠小僧のエッセンスを加えてルパン三世が帰ってきた。小栗旬バージョンの実写はどのキャストも頑張っていたものの、峰不二子役の黒木メイサが残念ながらノイズだった。ならばと3DCGアニメでルパンたちを蘇らせた。この判断は正解である。『 ドラゴン・クエスト ユア・ストーリー 』の傷も少しは癒された。

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あらすじ

時は第二次大戦。稀代の考古学者ブレッソンは、ある宝のありかを示した日記、“ブレッソン・ダイアリー”をナチスに狙われていた。時は流れ、パリにてお披露目されるそのダイアリーをルパン三世(栗田貫一)が狙って現れる。レティシア(広瀬すず)という考古学者の卵の少女と共に、ルパンは宝の謎解きに乗り出すが・・・

 

ポジティブ・サイド

ルパン三世とは何か。それは大泥棒にして義賊、犯罪者にして正義漢、破廉恥にして紳士、そうした非常に矛盾に満ちたキャラクターである。かかる複雑な属性がルパンの大いなる魅力になっていて、そのことは本作でもいかんなく発揮されている。例えば不二子に対しては「報酬は俺の体で」と下品なオファーをする一方で、レティシアには「いい女になれ」と優しく諭す。元々の漫画では、割とすぐにすっぽんぽんになって不二子に襲いかかっていたが、一般大衆アニメになるにつれて、そうしたエロ要素が薄れてきた。本作はルパンのそうしたスケベ属性を残している。山崎監督のルパン三世へのリスペクトは本物だと思える。

 

他のキャラも立っている。常にルパンに先んじて、しかし途中でルパン一味に合流しながらも、最後には美味しいところを奪っていく峰不二子。今回はつまらないものを斬らずに、斬るべきものを一刀両断に斬る石川五ェ門。超絶ドライブ・テクニックと超絶射撃テクニックを披露する次元大介。そして、おそらくララ・クロフトよりも強くてセクシーな峰不二子。まさに役者がそろっている。彼ら彼女らが生き生きと銀幕上を動くだけで、実に楽しく感じられる。

 

ストーリーも悪くない。ナチス第三帝国の復活ネタは古くは小説では『 ブラジルから来た少年 』、近年の映画でも『 アイアン・スカイ 』や『 帰ってきたヒトラー 』など、いつの時代でも掘り起こされるテーマだ。それこそ、ヒムラーやゲッベルスが映画化される日も近いはずである。また戦後70数年になんなんとする今、ナチス・ドイツは日本の若い世代にはファンタジー的な存在になりつつもある。そうした世界でルパンという架空のキャラクターを活躍させることで、かえってリアリティを増しているようにすら感じられた。

 

ストーリーはテンポよく進むし、スリルとサスペンスとユーモアの配分も見事である。ルパン三世とその仲間たちは見事に復活したと言えるだろう。なによりも名曲“ルパン三世のテーマ”が流れてくるだけで、少年時代が蘇ってくる。“ゴジラのテーマ”や“ロッキーのテーマ”と並んで、それが聞こえてくるだけで物語世界に一気に引き込まれるように感じる。THE FIRSTと副題にあることから、THE SECONDやTHE THIRDへの期待もふくらむ。

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ネガティブ・サイド

アクションシーンやプロットのあまりにも多くの部分がクリシェである。クリシェという言葉が辛辣に過ぎるなら、過去の名作へのオマージュが多過ぎると言い換えればよいだろうか。パッと思い浮かぶだけでも

 

映画『 インディ・ジョーンズ/最後の聖戦 』

映画『 ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル 』

映画『 ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション 』

映画『 天空の城ラピュタ 』

映画『 ルパン三世 』(実写版)

TVアニメ『 未来少年コナン 』

TVアニメ『 ふしぎの海のナディア 』

 

などが挙げられる。特にお宝の封印は、びっくりするほど『 インディ・ジョーンズ/最後の聖戦 』のそれにそっくりである。正直なところ、本作にはオリジナリティは認められない。

 

またヒロインであるレティシアの年齢はいったいどうなっているのだ?物語冒頭では赤ん坊で、その後十年だか十二年が経過したところで、美術館のキュレーター的ポジションについているというのか。大学への進学を夢にしているところからも10代後半であると思われるが、それでもやはりこのヒロインは年齢不詳である。

 

総評

個人的にはアクションに胸が躍り、ユーモアには笑顔にさせられたが、ストーリーそのものには驚きはなかった。劇場鑑賞後、Jovianの嫁さんは「サイコー!」と言っていた。そこまで良かったか?と思ったが、同じく観客にいた6人組アラサー女子たちが滂沱の涙を流しながら、シアター内でも劇場ロビーでも称賛の言葉を次々に述べていた。観る人によって異なる感想を抱くということの好例である。ルパン三世のファンであってもそうでなくても、チケット代に見合うエンターテインメント作品にはなっている。

 

Jovian先生のワンポイント英会話レッスン

If you are an archaeologist, you have got to be a romanticist.

レティシアの「考古学者ならロマンチストじゃないと」という台詞である。ロマンチストは英語ではromanticist=ロマンティシストである。このように一般論を語る時は、しばしば主語をyouに設定するのが英語の特徴である。Jovianがアメリカ人の友人から聞いたこれと同じ構文として“If you don’t know about Harriet Tubman, you are not American.”というものがある。ここでは彼はyouを使ったが、これがJovianを指すものではないことは明らかである。

 

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, C Rank, アドベンチャー, ミステリ, 小林清志, 広瀬すず, 日本, 栗田貫一, 浪川大輔, 監督:山崎貴, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 ルパン三世 THE FIRST 』 -Lupin is back in action!-

『 ドラゴンクエスト ユア・ストーリー 』 -脚本家は長谷敏司か、庵野秀明か-

Posted on 2019年8月12日2020年4月11日 by cool-jupiter

ドラゴンクエスト ユア・ストーリー 40点
2019年8月8日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:佐藤健 有村架純 波瑠
監督:山崎貴

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少し前までは中高生でも『 ゴジラ 』を知らない子たちがいた。しかし、さすがに『 ドラゴンクエスト 』や『 ファイナルファンタジー 』を知らないということはないようだ。大学生の頃に、ドラクエはⅦまで一応クリアしたんだったか。それ以降はクリアしていない(プレーはした)。しかし、ⅢのSFC版やⅣのプレステ版はかなりやりこんだ記憶がある。Ⅴの初回プレーでは、もちろん名前はトンヌラ・・・ではなくユーリルと入力。久美沙織の小説の影響である。あの頃は周辺小説(『 アイテム物語 』、『 モンスター物語 』)だけではなく『 4コママンガ劇場 』にもハマっていた。早い話が、当時の自分は少年だったわけである。

 

あらすじ

リュカ(佐藤健)は父パパスと共に世界を旅していた。しかし、謎の妖魔ゲマによりパパスは絶命。リュカはラインハットの王子ヘンリーともども奴隷にされてしまう。十年後、辛くも脱出したリュカとヘンリーは、それぞれの生活に帰っていく。リュカはかつて暮らしていたサンタローズを目指すが・・・

 

  • 以下、本作品、ドラゴンクエストⅤおよび関連作品のネタばれに類する記述あり

 

ポジティブ・サイド

グラフィックの美しさとゲームっぽさのバランスが素晴らしい。実際のゲームでも『 ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち 』はFC、『 ドラゴンクエストV 天空の花嫁 』はSFCである。ファミコンからスーパーファミコンへのレベルアップ時の衝撃は、それをリアルタイムに体験した者にしか分からないだろう。その後、PSやPS2、X-BOXも出てくるわけだが、FCからSFCへの移行ほどのインパクトはなかった。ちょうど良い具合に当時の少年少女、大人たちの想像力を刺激してくれたのだ。デフォルメされた2Dグラフィックが、我々の脳内でほどよくリアルな姿に変換されたのだ。リュカやパパス、サンチョの姿に、少年の日のあの頃を思い返した。

 

原作改変には賛否両論あろうが、少年時代をダイジェスト的にゲーム画面で済ましてしまうのもありだろう。安易にナレーションに逃げるよりはるかにましである。基本的に映画というのものは1時間30分から2時間に収めてナンボである。

 

ベビーパンサーの名前がゲレゲレなのもポイント高し。おそらくリアルタイムの初回プレーでこの名前を選んだのは、漫画家の衛藤ヒロユキ氏とJovian、その他数百名ぐらいではないかと勝手に勘定している。確か父親が何か別のソフトと抱き合わせで買ってきてくれたんだったか。ビアンカの命名センスに喝采を送ったあの日を思い出した。

 

すぎやまこういちの楽曲の力も大きい。小学生の頃にレンタルVHSで『 ドラゴンクエスト ファンタジア・ビデオ 』で、あらためてドラゴンクエストの音楽の魅力を確認したんだった。特に、フィールドの音楽。個人的にはⅢのフィールドの音楽がfavoriteだが、Ⅴのそれも素晴らしい。やはり少年の日のあの頃を思い起こさせてくれた。

 

ネガティブ・サイド

なぜ息子一人だけなのか。娘はどこに行った?その息子の名前がアルスというのは漫画『 ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章 』由来なのか。だから最後に異魔神が登場するのか?スラリンがワクチンだというのも、漫画『 DRAGON QUEST -ダイの大冒険- 』のゴメちゃん=神の涙、というネタの焼き直しなのか。占いババは『 ドラゴンボール 』のそれか、またはドラクエⅥのグランマーズか。だからゲマの最期はデスタムーアの最終形態なのか。BGMもⅤ以外が混ざっていたが、そこはなんとかならなかったのか。唐突に登場するロトの剣も、天空シリーズと全く調和しない。それはさすがに言い過ぎか。

 

本作への不満の99%はラストのシークエンスにある。とにかくミルドラースが異魔神なのである。と思ったらウィルスなのである。この世界はすべて遊園地のVRアトラクションだったのである。それを匂わせる描写は確かにいくつかあった。妖精ベラの台詞(「今回はそういう設定なの」)。リュカの口調や口癖(「マジっすか!?」など)。唐突に「クエスト」などという、Vには存在しなかったシステムにリュカが言及する。倒されたモンスターが消える。ゴールドに変化する。ゲーム世界の文法で考えれば当たり前であるが、映画世界の文法ではそうでは無い事柄が散見された。そこはフェアと言えばフェアである。

 

問題は、映画を鑑賞する者の少年時代あるいは少女時代、あるいはその精神を否定する権利がいったい誰にあるのかということである。夢を見て何が悪い?現実から一時的にでも目を背けて何が悪い?何も悪くないだろう、それが社会的に著しい不利益を引き起こさなければ。何よりも、当時も今もゲームはコミュニケーション・ツールなのだ。どのモンスターを仲間にした、仲間にしていない。どのモンスターがどのレベルでどんな強さになるのか。PCは少しは普及していたものの、インターネットなどが影も形もない時代に、小中高校生がお互いの家に遊びに行って、ドラクエやらFFやらストⅡやらに興じて、友情を確かめ合い、深め合ったのだ。それだけではない。関連する小説や漫画で、ゲーム以外でもキャラクター達と出会い、交流していたのだ。そういった体験を虚構であると断じるのは容易い。しかし、虚構に価値が無いとは決して認めたくない。それをしてしまえば、DQだけではなく、あらゆるフィクション(映画、テレビドラマ、舞台演劇、講談、etc)を否定してしまうことになる。大人になれ、というメッセージを発するのは構わない。だが、誰もが持っている楽しかった少年時代を棄損することは許されない。いい大人がいつまでもpuer aeternus=永遠の少年では困る。大人には責任や職務、義務があるからだ。けれど、その大人の心の中に住まう「永遠の少年」を攻撃することは、人格攻撃に等しい。この手法は認められないし、許されない。なによりもこれは『 劇場版エヴァンゲリオン 』の焼き直しではないか。なぜ今になって、このような周回遅れのメッセージを発するのか。岡田斗司夫が『 オタクはすでに死んでいる 』で喝破したように、オタクという人種が隔離され、忌避される時代は終わった。誰もがマイルドにオタクであり、社会もそれを容認しているのが今という時代なのだ。そこに、このようなメッセージを携えて『 ドラゴンクエストV 天空の花嫁 』を映画化する意義はゼロであると断じる。

 

総評

ドラゴンクエストのファンは観てはならない。観なくてもよい、ではない。観てはならない。特に貴方がJovianと同じくアラフォーであれば、本作は忌避の対象である。しかし、ラストのシークエンスを除けば、しっかりしたストーリーのある映像作品として成立してしまっている。そうした意味で、若い世代、またはリアルタイムでファミコンやSFCはけしからんと感じていた、60代後半以上の高齢世代が、本作を適度な距離感で鑑賞できるのかもしれない。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, D Rank, ファンタジー, 佐藤健, 日本, 有村架純, 波瑠, 監督:山崎貴, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 ドラゴンクエスト ユア・ストーリー 』 -脚本家は長谷敏司か、庵野秀明か-

『 アルキメデスの大戦 』 -戦争前夜に起こり得たリアルなフィクション-

Posted on 2019年8月8日2020年4月11日 by cool-jupiter

アルキメデスの大戦 80点
2019年8月4日 MOVIXあまがさきにて鑑賞
出演:菅田将暉 柄本佑 浜辺美波
監督:山崎貴

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戦艦大和を知らない日本人は皆無だろう。仮に第二次大戦で沈没した大和のことを知らなくとも、漫画および映画にもなった『 宇宙戦艦ヤマト 』やかわぐちかいじの漫画『 沈黙の艦隊 』の独立戦闘国家やまとなど、戦艦大和はシンボル=象徴として日本人の心に今も根付いている。それは何故か。やまとという名前が日本人の大和魂を震わせるからか。本作は、戦艦大和の建造の裏に大胆なドラマを見出した傑作フィクションである。

 

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あらすじ

時は第二次世界大戦前夜。日本は世界の中で孤立を深め、欧米列強との対立は不可避となりつつあった。そこで海軍は新たな艦船の建造を計画、超巨大戦艦と航空母艦の二案が対立する。戦艦の建造予算のあまりの低さに疑念を抱いた山本五十六は、数学の天才の櫂直(菅田将暉)を旗下に招き入れ、その不正を暴こうとするが・・・

 

ポジティブ・サイド

『 風立ちぬ 』と共通点が多い。戦争前夜を描いていること、主人公がややコミュ障気味であること、その主人公が数学者・エンジニア気質であることなど、本当にそっくりである。菅田将暉演じるこの数学の天才児は、どことなく機本伸司の小説『 僕たちの終末 』の岡崎のような雰囲気も纏っている。「それは理屈に合わない」という台詞を吐きながらも、滅亡のビジョンを眼前に想像してしまうと、間尺に合わない選択をしてしまうところなど瓜二つである。つまり、男性にとって非常に感情移入しやすいキャラクターなのだ。男という生き物は、だれしも自分の頭脳にそれなりの自信を持っているものなのだ。俺が経営幹部ならこんな判断はしない。俺が政治家ならこういう施策を実施する。そういった脳内シミュレーションを行ったことのない男性は皆無だろう。同時に、男はある意味で女性以上に感情に振り回される生き物でもある。面子、プライド、沽券。こういった理屈で考えれば切り捨てるべき要素に囚われるのも男の性である。櫂という漫画的なキャラクターにして非情にリアリスティックでもあるキャラクターを十全に演じ切った菅田将暉は、20代の俳優陣の中ではトップランナーであることをあらためて証明した。

 

本作は冒頭からいきなり大迫力の戦闘シーンが繰り広げられる。『 シン・ゴジラ 』を手掛けた白組だが、They did an amazing job again! プレステ6かプレステ7ぐらいのCGに思える。思えば『 空母いぶき 』のF-22もどきはプレステ4ぐらいのグラフィックだった。戦闘シーンの凄惨さは写実性や迫真性においては『 ハクソー・リッジ 』には及ばないが、それでも近年の邦画の中では出色の完成度である。特に20mmまたは30mm砲の機銃掃射を生身の人間が浴びればどうなるかを真正面から描いたことは称賛に値する。何故なら、それがリアリティの確保につながるからだ。漫画『 エリア88 』でグエン・ヴァン・チョムがベイルアウトした敵パイロットに機関砲を浴びせるコマがあるが、あの描写は子供騙しである。もしくは編集部からストップがかかり、修正要請が出されたものである。70年以上前の第二次大戦時の戦闘機であっても、その機銃を浴びれば人間などあっという間に肉塊に変身する。そこを逃げずに描いた山崎監督には敬意を表する。

 

本作は今という時代に見事に即している。戦争前夜に、戦争を止めようと奔走した人物が存在したというフィクションがこの時代に送り出される意味とは何か。それは今日が戦争前夜の様相を呈しているからである。前夜という言葉には語弊があるかもしれない。本作は実際には日本の真珠湾奇襲の8年前を描いているからだ。戦争とは、ある日突然に勃発するものではない。その何年も前から萌芽が観察されているものなのだ。現代日本のpolitical climateは異常ではないにしても異様である。圧力をかけるにしろ対話による融和を志向するにせよ、その相手は北朝鮮であるべきで韓国ではない。自民党幹部および安倍首相はアホなのか?そうかもしれない。しかし、我々は第4代アメリカ合衆国大統領のジェームズ・マディソンの言葉、“The means of defense against foreign danger, have been always the instruments of tyranny at home.”=「 外敵への防衛の意味するものは、常に国内における暴政の方便である 」を思い出すべきだろう。自民党がやっていることは庶民を苛めつつも、庶民の溜飲を下げるような低俗なナショナリズムの煽りでしかない。株価は上がっていると強調しながら賃金は下がっている。雇用は改善していると言いながら、正社員は激減している。身を切る改革を謳いながら、議員定数を増やしている。国益を守り抜くと言いながら、韓国相手の巨大な貿易黒字を捨ててしまっている。そんな馬鹿なと書いている自分でも思うが、これがすべて事実なのだ。国外脱出をしたくなってくる。『 風立ちぬ 』でも二郎が、国の貧しさと飛行機パーツの価格の高さの矛盾を嘆いていたが、櫂も新戦艦の建造費用を「貧しい国民が必死に払った税金」だと喝破する。戦艦大和に込められた思想的な部分を抜きにこのシーンを見れば、クソ性能で超高価格のF-35なるゴミ戦闘機がどうしても思い浮かぶ。身銭を切って幻想を買う。この大いなる矛盾が戦争前夜の特徴でなければ、一体全体何であるのか。『 主戦場 』でミキ・デザキは日本がアメリカの尖兵として戦争に送り込まれることを危惧していたが、そうした問題意識を高めようとする映画を製作しようとしう機運が映画界にあり、そうした映画を製作してやろうという気概を持つ映画人が存在することは誇らしいことである。

 

本作の見せ場である新型戦艦造船会議は、コメディックでありサスペンスフルである。『 清州会議 』的な雰囲気を帯びていながらも、本作の会議の方が緊迫感があるのは、それが現代に生きる我々の感覚と地続きになっているからだろう。一つには税金の正しい使い道の問題があるからであり、もう一つには大本営発表の正しさの検証妥当性の問題があるからである。この会議で日本映画界の大御所たちが繰り広げる丁丁発止のやり取りを、その静かな迫力で一気に飲み込んだ田中泯演じる平山忠道の異様さ、不気味さが、その余りの正々堂々たる姿勢と相俟って、場の全員を沈黙に追いやる様は圧巻である。彼の言う「国家なくして国民なし」という倒錯した哲学は、『 銀河英雄伝説 』のヤン・ウェンリーがとっくの昔に論破してくれているが、それでも国家は国民に先立つ考える人間の数がどこかの島国で増加傾向にあるようだ。憂うべきことである。

 

登場する役者全員の演技が素晴らしく、CGも高水準である。脚本も捻りが効いており、原作者および監督のメッセージも伝わってくる。『 空母いぶき 』に落胆させられた映画ファンは、本作を観よう。

 

ネガティブ・サイド

一部のBGMが『 ドリーム 』や『 ギフテッド 』とそっくりだと感じられた。数式をどんどんと計算・展開していく様を音楽的に置き換えると、どれもこれも似たようなものになるのかもしれないが、そこに和のテイストを加えて欲しかった。『 ゴジラ キング・オブ・モンスターズ 』ではオリジナルの伊福部サウンドを再解釈し、大胆なアレンジを施してきた。もう少しサウンド面で冒険をしても良かった。

 

Jovianは数学方面にはまったく疎いが、物語序盤で櫂が鮮やかに扇子の軌道計算を行っていた場面は疑問が残る。1930年代にカオス理論があっただろうか。扇子のような複雑な形状の物体は、いくら比較的狭い室内で無風状態であるとはいえ、カオス理論なしには計算不可能なような気がする。それ以前に、櫂は巻尺は常に携行しているが、重さを測るためのツールは持っていないだろう。扇子の重量を計算に入れずに、いったいどうやって軌道計算したというのか。大いに疑問が残った。

 

また数学者が主役で、戦時に活躍するとなると、どうしても『 イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密 』を想起する。櫂の計算能力は天才的ではあるものの、発想力という意味ではアラン・チューリングには及ばなかったように思う。船の建造費を導き出す方程式にたどり着いたのは見事だったが、悪魔の暗号機エニグマに対抗するには、計算ではなく計算機械が必要なのだという非凡な発想を最初から持っていたチューリングの方が、どうしても一枚上手に思えてしまう。事実は小説よりも奇なりと言うが、櫂というfictionalなキャラクターにもっとfictitiousな数学的才能や手腕をいくつか付与しても良かったのではなかろうか。

 

総評

娯楽作品としても芸術作品としても一線級の作品である。日本人の心に今も残る戦艦大和の裏に、驚くべきドラマを想像し、構想し、漫画にし、それを大スクリーンに映し出してくれた全てのスタッフに感謝したい。いくつか腑に落ちない点があるが、それらを差し引いても映画全体として見れば大幅なプラスである。今夏、いや今年最も観るべき映画の一つだろう。

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Posted in 国内, 映画Tagged 2010年代, A Rank, サスペンス, ヒューマンドラマ, 日本, 柄本佑, 歴史, 浜辺美波, 監督:山崎貴, 菅田将暉, 配給会社:東宝Leave a Comment on 『 アルキメデスの大戦 』 -戦争前夜に起こり得たリアルなフィクション-

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